「部下のやる気を引き出すためにどんな言葉をかければいいか分からない」「上司からの言葉の意図が分かりづらい」――。昨年開催した日経xwomanのオンラインセミナーではこんな悩みが多数寄せられました。
他人が発した言葉に振り回されている人が少なくない――こんな問題意識を抱いた博報堂フェローでスピーチライターのひきたよしあきさんと編集部は、オンライン上の日経xwoman読者コミュニティ(有料会員限定)や直接のヒアリングを通して500人以上の声を集め、なぜ言葉が伝わらないのかを取材し、議論を重ねました。
そこで、導き出した回答を一冊の本にまとめました。タイトルは『人を追いつめる話し方 心をラクにする話し方』。

・部下のやる気を引き出したいがなんと言えばいいか分からない
・部下を指導したいが、強く言いすぎてしまわないか心配
・伸び悩んでいる部下を変えていきたい
・上司や先輩の言葉に傷ついたことがある
・上司や先輩の指示の意図がよく分からない
ひきたさんは、私たちの言葉が伝わらないのは、主に2つの理由があると言います。1つは「生まれた時代」です。
「時代背景によってそれぞれの脳みそにバージョンの違うパソコンが搭載されているようなもの」。だからこそ、同じ言葉でも違う解釈が生まれてきてしまうのです。
社会で働く人々は主に特徴的な3つの世代に分けることができるそう。
「まずは、1995年〜2013年に働き始めた『平成世代』。2022年現在、49歳〜31歳に達しています。いわゆる『働き盛り』。この国を、社会を、会社をけん引する世代です。
そしてその上にいるのが、59歳くらいから49歳あたりまで、1980年代後半〜 95年前後に働き始めた『昭和世代』。経済は、右肩上がりが当たり前。男女雇用機会均等法施行(86年)以前の働き方も色濃く残った人たちです。
下を見れば、 31歳から 23歳あたりまで、2013年〜 21年に働き始めた『令和世代』が並びます。いわゆるデジタルネイティブで、『ジェネレーションZ』と呼ばれる新しい価値観を持った世代も含まれます。価値観も生活様式も、平成世代、昭和世代とは全く違います」
そして、言葉が伝わらない、もう1つの理由が新型コロナウイルス禍によって加速したデジタル化にあると言います。
「リアルに会って、雑談したり、にじみ出る人柄を感じたりする機会が減っています。求められるのは『効率』と『実績』。ついつい『効率的にやっているのか?』『実績は上がっているのか?』という言葉が増えてしまう。
仕事ばかりではありません。家庭やプライベートのコミュニケーションでも、LINEやインスタグラムなどのSNSは不可欠。短い言葉を書き連ねるなかで、つい、きつい言葉や言わなければいい一言を書いてしまう。私たちは知らず知らず、『北風化』する言葉の世界を生きています」
では、こんな時代にどのようにコミュニケーションを取ればいいのでしょうか。本書では部下の心を強風であおる北風上司と、部下の心を温めて自らの成長を促す太陽上司という2人の上司が登場し、それぞれの部下にこんな言葉をかけていきます。
・「その仕事、やる意味あるんですか?」と言う部下を諭す言葉
・効果的に褒める言葉
・ついてきてくれる部下の心を一瞬で冷めさせる言葉
・部下の手柄をかすめ取るひきょうな言葉
2人の上司の言動から、自分は部下にどんな言葉をかければいいのか、どんな言葉は避けるべきなのか、上司の言葉をどう受け止めればいいのかが、自然と理解できるように。そして、2人の上司の厳しくも温かい言葉にふれることで、読後は爽やかな、前向きな気持ちになれるはず。
部下を一人でも持つ上司、部下の立場にいる人、そして人の言葉にいつも気持ちが揺れ動く人に読んでいただきたい一冊です。ぜひ、北風上司、太陽上司の物語をお楽しみください。
文/飯泉 梓(日経xwoman編集部) 写真/福田秀世