部下にどんな言葉をかければいいか悩んでしまう、上司の言っていることの真意が分からない。同じ日本語を話しているはずなのに、なぜ、伝わらないのか。そんな世代間ギャップに注目し、コミュニケーションのノウハウや言葉の使い方を分かりやすく物語形式で解説したひきたよしあきさんの著書『人を追いつめる話し方 心をラクにする話し方』(日経BP)は発売後約2週間で増刷が決定! 今回は同書から、「部下が上司にはしごを外されたと感じる言葉」を紹介します。

登場人物
北風上司(右)
総合イベント会社ホワイトベア営業一課課長。1977年生まれ、45歳。入社当時から営業一筋。売り上げ目標、ノルマに厳しく、それを達成するには手段を選ばないところがある。若いころから日の当たる道を歩んできたせいか、「人の気持ちが分からない」とささやかれている。

桜川春一(左)
入社8年目。子ども向けのイベントで赤字を出してしまう。

取引先への謝罪、守ってくれるはずの上司が…

 連休の子ども向けフェス。過去に例がないほどの赤字を出してしまった。もちろん、僕たちが完璧だったとは言わない。でも、過去に例がないほどの悪天候を始め、さまざまな不運に見舞われてしまった。

 なんとかリモートでも参加できるハイブリッド形式にしたけれど、告知が遅く、人の集まりが悪かった。会場で配る予定だったサンプル商品や、子どもたちを楽しませるための段ボールハウスやスウェーデン製のゲームは手つかずのまま倉庫へ。仕方がないこととはいえ、「なぜ、もう少し早く気が付かなかったのか」「万が一のことに対処する企画を考えていなかったのか」と言われると、言葉がない。

 確かに僕たちも、できると信じてやっていたところがあった。情熱だけで乗り切れるものじゃなかった。このイベントを依頼した取引先に説明に行く。実質的な謝罪だ。営業から、取引先が不機嫌だと聞いた。何度も「大丈夫ですか」とも言われていた。気が重い……。

 事態を重く見た会社は、北風上司にも先方に向かうように命じた。ある程度の肩書のある人が行かないと、事態は収拾できないとの判断だった。それが、僕の気をますます重くした。北風上司が頭を下げたところを見たことがない。謝罪なんてできるのか。

 得意先の食堂で30分も待たされたのは、先方からの「あなたの会社を信用していません」という合図だ。最悪の気分。北風上司は案外さっぱりしていて、「俺、この案件、あんまり関わってなかったから、よく知らないんだよなあ」と言っている。同期が事の経緯を説明しているところで、会議室に呼ばれた。

 「今回は、誠に申し訳ございませんでした」と、北風上司の謝罪から始まる。「あ、ちゃんと謝れるんだ」とほっとしたのもつかの間、奈落の底へ。

 「桜川、じゃ、ちゃんと説明して。どうしてこういうことになってしまったんだ!」

 北風上司は、怒った口調で僕に向かって言った。おかしい。守ってくれるはずの上司が、まるで取引先の代表のような顔と口調で僕を責めている。必死に説明した。正直、得意先より、腕を組んで難しい顔をしている北風上司のほうが怖い。「得意先の前でわざと大げさに怒って、相手の矛先を鈍らせようとしているのか?」と一瞬思ったが、どうやらそうではなく、自分のメンツを守りたいだけのようだ。その証拠に取引先の怒りは僕に向いて、とどまる気配がない。なんだか全責任が自分にあるみたいだ。仕事が怖い。人間って怖い……。