「粒ぞろいより、粒違い」

 「岸上さん。これは上司ではなく、『ひとりの友人』の忠告だと思って、聞いてほしい。会社を簡単に辞めるな。辞めるのは、いつだってできる。時短勤務だって、休んだっていいじゃないか。会社を使うだけ使えばいい。

 岸上さん、これはあなたのためだけじゃなく、会社のためでもあるんだよ。どんなに有能な人間だって、病気もすれば、親の面倒を見なくちゃいけないときもある。それは特別なことではなく、至極自然な話だ。岸上さんが、お母さんやおばあさんの介護をし、子どもの受験に付き合う。すると、会社のみんなから後れを取るように思うかもしれないけれど、そんなことはない。後れるからこそ、新しい視点で世の中を見ることができる。その視点は、会社にとって財産なんだよ。『粒ぞろいより、粒違い』うちの会社は常々そう言っているじゃないか。胸を張って、粒違いになればいい。応援するよ」

 部屋に目を移した。見れば確かに粒違いが、違う力を発揮しながら、大きな仕事を動かしている。私もその粒のひとつになりたい、そう思った。

【解説】部下の多様性を認める言葉

 太陽上司の言葉、じーんときますね。実はこの「粒ぞろいより、粒違い」という言葉は、私が勤めていた博報堂で受け継がれてきた言葉なんです。「生活者発想」を標榜(ひょうぼう)し、常に「生活」と寄り添う。そのために、多様性を認める。「粒違いの人材」がいることを歓迎しなくては、クリエーティブな仕事は絵に描いた餅で終わってしまうのです。

 太陽上司は、「病気」も「介護」も「子どもの受験」も受け入れようとしました。会社を辞める必要はない。むしろ、こういうときにこそ「会社を使うだけ使え」とアドバイスしました。上司としてなかなか言えることではありません。だから初めに、「ひとりの友人」の忠告と断っているんですね。このように会社の立場を離れて、友として人として語りかけてくれる人はありがたいものです。

 世の中はどんどん多様化しています。働き方も働く人も、さまざまです。強い会社は、この多様性に積極的なはず。粒ぞろいより、粒違い。いろいろな課題を抱える人間が集まって、その役割に応じた働きぶりで、ひとつの目的を達成していく。岸上さんにはぜひ、粒違いのひとりとして、会社を使うだけ使ってほしいものです。

ポイント

人生の岐路にいる部下には、
「上司として」ではなく「一個人として」向き合う

言葉のプロが500人以上の声を集めて作った あなたの一言で部下が伸びる!見直すべき「声のかけ方」30のシーン
『人を追いつめる話し方 心をラクにする話し方』
編集:日経xwoman
発行:日経BP
定価:1650円(10%税込)

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【内容】
イソップの寓話「北風と太陽」の教訓を基に、「北風上司」と「太陽上司」を主人公にした物語形式の一冊。

★相手を励まし、前向きにさせる「太陽言葉」
・プレッシャーに押し潰されそうな部下の心を軽くする言葉
・大きなミスをして落ち込んでいる部下を立ち直らせる言葉
・家庭の事情に悩む部下を勇気づける言葉 など

★相手のやる気をなくさせ、恐怖を与える「北風言葉」
・チャレンジしようとする部下の芽を潰す言葉
・部下に、「上司にはしごを外された」と感じさせる言葉
・仕事に私情を挟んで、部下を混乱させる自分勝手な言葉 など

イラスト/大西洋