部下にどんな言葉をかければいいか悩んでしまう、上司の言っていることの真意が分からない。同じ日本語を話しているはずなのに、なぜ、伝わらないのか。そんな世代間ギャップに注目し、コミュニケーションのノウハウや言葉の使い方を分かりやすく物語形式で解説したひきたよしあきさんの著書『人を追いつめる話し方 心をラクにする話し方』(日経BP)は発売後約2週間で増刷が決定! 今回は同書から「部下の手柄をかすめ取る卑怯な言葉」を紹介します。

登場人物
北風上司(右)
総合イベント会社ホワイトベア営業一課課長。1977年生まれ、45歳。入社当時から営業一筋。売り上げ目標、ノルマに厳しく、それを達成するには手段を選ばないところがある。若いころから日の当たる道を歩んできたせいか、「人の気持ちが分からない」とささやかれている。

西川晋太郎(左)
入社10年目。社運を懸けたプレゼンに成功する。

 競合に勝利。来春に催されるイベントのプレゼンに勝った。長かった。再プレ(再度のプレゼンテーション)どころか、再々プレにまでなった。僕たちのチームを心配した会社は、社内にもう1チームを立てたため、社内で競合するところまで追い詰められた。

 「大丈夫か。このプレゼンは落とすわけにはいかないからな」。廊下ですれ違う人の多くに声を掛けられる。そのなかには、役員の姿もあった。まさに社運を懸けたプレゼンだった。競合に勝利の情報は、得意先に詰めていた若手から入った。

 「勝ちました! うちです! 決まったのは、うちです!」と、LINEではなく直接電話で知らせてきた。よほどうれしかったんだろう。僕は、早速、北風上司に報告する。席を立ち、窓の外をイライラしながら見ていた北風上司に報告すると、

 「西川! よくやった!」と、がっちり握手。肩をパンパンと強く叩かれた。「西川、プレゼンの詳細を教えてくれ」と言ってデスクに座ってペンを持つ北風上司に、今日までの苦闘の歴史、部下やスタッフたちのがんばりを熱く語った。

 2日後、僕たちは社長に呼ばれた。北風上司以下、メンバーに声が掛かり、社長室へと向かった。いつもはTシャツ姿のクリエーターもジャケットを着ている。みんな硬くなっていると、社長に向かって、北風上司がこう切り出した。

 「いやあ、苦労しました。3週間、眠れない日が続きました」

 え? 北風上司、1回もプロジェクトに顔を出してないですけど。

 その後、北風上司は社長に向けて、僕から聞いた詳細を、さも自分がやったかのように語りだした。汗をひとつもかいていないのに、汗をかいているふりが超絶うまい。

 「こんなメンバーで勝てるのかと、ずいぶんご心配をおかけしましたが、私の拙い指導で、なんとかここまで来ることができました」

 僕は思った。「こういうやつが出世する会社は、最悪だな」。ここまで苦労を重ねてきただけに、心の中でふっと何かが切れた。この会社で定年まで働くなんて絶対無理だ!