【解説】最初にマウントを取るべからず

 北風上司、しょっぱなから全否定モードでしたね。上司のなかには彼のように、会話や会議の冒頭で、必ずマウントを取ってくる人がいます。北風上司の言葉、まず「それだけ?」は、前田くんの仕事の数量に対する否定です。これは、よくありません

 いい点数を取ってきた子どもを褒めるとき、「85点も取って! ママうれしい!」と点数を褒めてしまうと、子どもは「85点を取ると褒められる」と、数値で判断するようになります。すると、難しい問題にチャレンジして85点以下になることを極端に恐れるようになる、といわれています。北風上司の「それだけ?」という発言は、部下に「数が少ないと北風上司に怒られる」という認識を与え、良い悪いに関係なく、まずは数をそろえるという間違った仕事の方向に導いてしまいます。

 もうひとつ。「他の人に頼んでみるか」。これは、きつ過ぎます。「おまえよりできるし、私が信頼している人が他にもいるんだよ」という思いが込められていますね。

 これは、部下の仕事に対するリスペクトがなさ過ぎます。私が働いていた昭和ならば、仕事も単純で、似たような価値観と境遇の人がたくさん働いていました。そういうなかでの競争は、意味もあったと思います。しかし、今は違います。それぞれがパーソナルな情報網を持ち、自分なりの価値観を持って仕事をしているのです。そこを無視し、「競争させることで発奮させる」という育て方は、あまりに時代遅れです。前田くん、北風上司のマウントに負けるなよ。彼が古くて、弱いだけだ。君のせいじゃないよ。

まとめ

部下を比べて競争心をあおる育て方は時代遅れ

言葉のプロが500人以上の声を集めて作った あなたの一言で部下が伸びる!見直すべき「声のかけ方」30のシーン
『人を追いつめる話し方 心をラクにする話し方』
編集:日経xwoman
発行:日経BP
定価:1650円(10%税込)

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【内容】
イソップの寓話「北風と太陽」の教訓を基に、「北風上司」と「太陽上司」を主人公にした物語形式の一冊。

★相手を励まし、前向きにさせる「太陽言葉」
・プレッシャーに押し潰されそうな部下の心を軽くする言葉
・大きなミスをして落ち込んでいる部下を立ち直らせる言葉
・家庭の事情に悩む部下を勇気づける言葉 など

★相手のやる気をなくさせ、恐怖を与える「北風言葉」
・チャレンジしようとする部下の芽を潰す言葉
・部下に、「上司にはしごを外された」と感じさせる言葉
・仕事に私情を挟んで、部下を混乱させる自分勝手な言葉 など

イラスト/大西洋