相手の本音を自然と引き出す新しいヒアリングメソッドについて解説した元NHKキャスター・牛窪万里子さんの著書『難しい相手もなぜか本音を話し始めるたった2つの法則 入門・油田掘メソッド』(日経BP)。前回の記事「誰もが、隠れた相手の本音を引き出せる『質問』とは?」では、相手の本音を探る「油田掘メソッド」について紹介しました。今回は、ベースとなる理論について詳しくお話しすることで、このメソッドの核心に迫ります。
こんにちは、フリーアナウンサーの牛窪万里子です。特別な会話のセンスを必要とせず、おうむ返しで質問をするだけの「油田掘メソッド」が、なぜ相手の本音を引き出せるのか、その理由についてお話ししましょう。ポイントは、相手の発した「キーワード」を「そのまま繰り返す」ことにあるのです。
会話の行き違いの原因にあるもの
例えば次のような、上司が部下から相談を受けているケースを考えてみましょう。
上司「そうか、君が苦手だと思っているのはどんなところ?」
部下「え? うーん……」
上司「(あれ、そういう話をしに来たのではないの?)」
この例では、上司は自然に会話を続けようとしたつもりでしたが、部下は口ごもってしまいました。皆さんの中にも、上司に共感し、部下の反応を疑問に思った人が多いのではないでしょうか。しかしこの場合、会話が途切れてしまった原因は、上司の質問にあるのです。
上司は「営業力をつけたい」と相談してきた部下に、「何が苦手なのか」と問い返しました。しかし考えてみると、部下は「苦手なことがあるんです」とはひと言も言っていません。「営業力をつけたいのか、つまり営業で苦手なことがあるんだな?」と、上司が勝手に決めつけているだけです。
部下からすると、自覚している苦手なポイントを克服したいと思って相談に来たわけではないのに、唐突に「苦手なのは?」と聞かれて、ポカンとしてしまっている状況なのです。

ではこの状況で、部下が本当に相談したかったことを聞き出すには、どんな質問をすればいいでしょうか。一つの正解が、次のひと言になります。
「君が考える営業力とは、何ですか?」
そう、相手の話を正しく聞くには、相手が使った言葉(この例では「営業力」)の正しい意味を知る必要があります。自分が知っている言葉だとしても、相手は違う意味で使っているかもしれないからです。これが、油田掘メソッドにおいて、相手の発したキーワードをおうむ返しにする理由です。