相手の本音を引き出す新しいヒアリングメソッドについて解説した元NHKキャスター・牛窪万里子さんの著書『難しい相手もなぜか本音を話し始めるたった2つの法則 入門・油田掘メソッド』(日経BP)。質問テクニックである「油田掘メソッド」について紹介した同書から、前回の記事「『相手の話を勘違いしている?』会話の途中で気づいたら」に続き、思うように会話がはこばない3つ目のケースとその対処法を紹介しましょう。

口数が少な過ぎる人に「油田掘」メソッドは通用する?

会話で困った!ケース【3】
口数の少ない相手に、自分が話すだけで終わってしまう

 油田掘がうまくいきにくい典型的な相手が「口数の少ない人」でしょう。相手の発したキーワードを拾って返すのが油田掘ですが、口数の少ない人の場合、そもそもキーワードが何も出てこないことがあるのです。

 私は NHKアナウンサー時代、よく各地の職人さんにインタビューしました。職人さんは朴訥(ぼくとつ)な方が多く、質問を投げても反応が鈍いことがよくありました。ひと言だけ、単語だけでボソッと答えますが、文章にもなっていないし、キーワードとしても曖昧だというパターンです。これでは、相手のキーワードをそのまま返す油田掘メソッドが始まりません。

 このタイプの相手の場合、必要なのはまず「待つ」心構えです。質問を受けて「うーん……」と考え込んでしまうようなとき、しばらくは口を挟まず、焦らずに待ちます。自分の本音を言語化することに慣れていない人も、ひと言ずつじっくりと考える時間があれば、思わぬキーワードを発してくれることがあります

 それでも拾えるキーワードが出てこない場合、質問者の側から「ヒント」を与えることも考えましょう。聞きたいテーマに関連したキーワードを提示して「もしかして〇〇ということですか?」と問いかけます。油田掘の基本としては、質問者側からキーワードを出すのは避けるべきなのですが、口数の少ない人に対してなら選択肢の一つでしょう。しかしあくまで、相手が自発的に言語化するのをサポートするためなので、押しつけずに静かに問いかけ、また言葉が途切れたとしても忍耐強く待つことが大切です。

 ここで一つ、「かなり口数の少ない人」に油田掘メソッドを実践したケースの具体例をお見せしましょう。私が実際にインタビューした、職人さんとのやり取りを基にしています。

◆口数の少ない人に「油田掘」をしたケース

牛窪 「作品を生み出すときは、どんな気持ちで取り組んでいらっしゃるのですか?」質問【1】

職人 「……まあ、自分ができることはこれしかないので」回答【1】

牛窪 「これしかない……。そう思われたのはなぜですか?」質問【2】

職人 「ずっと代々やってきたことだし、自然と親から学んで身に付いたものだから」回答【2】

牛窪 「途中でやめたいと思ったこともなかったのですか?」質問【3】

職人 「それはなかったね」回答【3】

牛窪 「何がそうさせたと考えますか?」質問【4】

職人 「やっぱり、伝統を守っていかなくちゃという責任感と、伝えていきたい思いからかな」回答【4】

牛窪 「伝えていきたい思いとは何ですか?」質問【5】

職人 「自分が作った作品を通して、昔から変わらない日本の繊細な心を伝えていきたい」回答【5】

 文章で読むとスムーズな会話に見えるかもしれませんが、実際は職人さんが考え込む沈黙も多く、忍耐強く待ちながらのインタビューでした。何を意図しながら質問していったか、順番に解説していきます。