日経xwomanをご覧の皆様、はじめまして。日経ビジネス編集部の編集者、Yと申します。
これからお読みいただくのは、マンガ家、泰三子さんにとっての初インタビュー。2018年の4月に日経ビジネス電子版に登場していただいた時のものです(今回、日経xwoman掲載に当たり、『「ハコヅメ」仕事論 女性警察官が週刊連載マンガ家になって成功した理由』第1章から一部を抜粋・再編集しています)。
泰さんは16年10月に「週刊モーニング」(講談社)へ初投稿、17年の22・23合併号から短編『交番女子』が掲載され、そして17年11月に『ハコヅメ』の週刊連載がスタート。その約5カ月後、単行本第1巻が刊行されたタイミングでお話を伺いました。
当時、自分(編集Y)は「『ハコヅメ』は文句なしに面白いマンガ」と思ってはいましたが、泰さんが、まさかここまでのマンガ家さんになられるとは予想だにしていませんでした。当時のウィキペディアにも、まだ「泰三子」の項目はなかったと記憶しています。そもそも警察官からなぜマンガ家を目指したのか、マンガ家になって戸惑ったこと、困ったことは何か。
まったく異なる仕事の世界に「異世界転生」した泰さんの心の内をお聞きください。
泰 三子さん(以下、泰) はじめまして。
編集Y(以下、編Y) 泰さんは、これが初めてのインタビューになるんですか。
講談社担当編集者の田渕さん(以下、田渕) 初めてです。
同・高橋さん(以下、高橋) そうなんです。
泰 はい。緊張しております。
編Y よろしくお願いいたします。さっそくなんですが、顔出しNG、お名前もペンネームということは、やはり『ハコヅメ』は、ご自身の体験記なんですか?
泰 まったくそのままじゃないんですけど、やっぱり経験を踏まえての話が多いですね。
安定の公務員を辞めてマンガ家になった理由
編Y 本当に警察官からマンガ家になられた。しかも公開されているご経歴だと、10年お勤めになった。ご本人はそう思っていらっしゃらないかもしれないんですけど、外から見ると、警察って、超保守、超安定、ザ・大組織みたいな印象があって、そこから、反権力、浮き沈み、一匹狼でフリーダムで腕一本みたいな世界に来られた。
田渕 また並べましたね(笑)。でも、その通りですけれど。
編Y もしかして田渕さんが言葉巧みにこっちの世界に……。
田渕 違います違います。僕はどちらかというと、いや、本気で必死に止めたんです。ご家族もあるし、成功が保証できる世界でもありませんし。
編Y ですよねえ。しかも、10年やっていれば、どんなお仕事だっていいところも悪いところも、手の抜きどころもわかってきて、ある意味それほどしんどくなくこなせるようになるものじゃないでしょうか。せっかく慣れたのに……とか、お思いにはなりませんでしたか。
泰 いえ、警察の仕事は多岐に及ぶので、10年目でも、もう全然まだまだという感じでした。
編Y そんなものですか。
泰 はい。職場の異動もちょくちょくありますし。団塊の世代の先輩方がまとまって抜けられたので、確かに立場的には中堅だったんですけど、本当に仕事がいろいろあり過ぎるので。交通から刑事から、風俗事犯の取り締まり、普通の総務や経理、もちろん遺失物拾得も。慣れるとか、「回していた」という感じはまったくないですね。何とかかんとか毎日、自分の責任を果たすことに集中して、やっていた感じです。