ロシアによるウクライナ侵攻で注目を集める女性兵士。欧州などで国防分野の女性活躍に期待の声がある一方で、「一部の国の女性の兵役参加への動きは、男女平等の観点とは異なる事情があることを知っておいたほうがいい」と一橋大学大学院教授の佐藤文香さんは指摘する。最終回では、男女格差の是正を名目に進められる女性の徴兵の動向と、効率面からのアプローチが目立ってきた女性活躍推進の問題点に、佐藤さんが鋭く斬り込む。
(1)「女も戦場へ」は究極の男女平等? 数より重要な問いは
(2)戦争や暴力の連鎖生む 「保護」を名目とした支配構造
(3)軍事組織とジェンダーの研究から見る女性活躍推進の実態
(4)戦後日本女性が家庭に戻った理由 ジェンダー史の分岐点
(5)男女平等と徴兵制 背景に目を向けないと事実を見誤る ←今回はココ
編集部(以下、略) 世界には軍事力を維持するために徴兵制を再検討する国が出てきています。男性の徴兵義務がある韓国では、2021年に女性の徴兵を巡る議論が白熱しました。世界には女性が兵役に参加している国がいくつかありますが、男女平等と女性の徴兵について、佐藤さんの考えを聞かせてください。
佐藤文香さん(以下、佐藤) 徴兵制を採用する国では、長い間、男性だけを対象にするというのが主流でした。例外的に、イスラエルなどいくつかの国は男女ともに徴兵を課していましたが、全く同じ条件というわけではなく、男性に比べて女性の兵役期間が短かったり、家庭のケアを担うなどの事情がある女性に対しての配慮措置があったり、さまざまな形で差異が設けられていました。
そんな中、ノルウェーでは男女平等の観点から、2015年に男女問わず徴兵を義務化したんです。スウェーデンでも2018年に女性の徴兵が始まりました。こうした北欧諸国の動向は人々の注意を引きますが、各国の男女徴兵の動きを注意深く見る必要があると思っています。
―― 佐藤さんはどの国の動きに注目をしているのですか?