社会人になってから大学院に通うのは「思ったよりも大変じゃなかった」福井県・越前市の中小企業に女性プロフェッショナル比率が高い理由とは?
vol.1 國岡里衣さん(33歳)●武生特殊鋼材・総務部・執行役員

共働き率全国ナンバーワン(※1)で、かつ出生率も全国上位を維持するなど、女性が産みやすく働きやすい環境が整っていることで有名な福井県。その中でも中央部に位置する越前市は、女性の就労や子育てについて、とりわけ手厚い支援体制があることで知られている。
今回は、この街に古くから伝わる伝統技術を活用するモノづくり企業で、女性初の執行役員となった國岡里衣さん(33歳)に職場環境やキャリアアップのリアルな状況を聞いた。
モノづくり越前を支える女性の力
國岡さんが働く「武生(たけふ)特殊鋼材株式会社」は、“クラッドメタル”という独自の特許技術を使い地場の伝統的工芸品である「越前打刃物(えちぜんうちはもの)」の発展にも貢献している、金属製品を開発・製造・販売するメーカー。クラッドメタルとは、例えばステンレスと鋼(はがね)など異なる金属材料を熱と圧力によって接着する、いわば“金属のベニヤ板”で、身近なところでは包丁やドアノブなどの建装材、大規模なものでは農工器具や建築物に活用されている。
「自分が就職した会社がグローバル企業だったなんて、就職してからしばらく経つまでまったく知りませんでした(笑)。私が入社したときは、女性社員が3名しかいませんでしたが、現在では社員50人中8人が女性。そのうちのほとんどは、それぞれの部署で通訳の仕事もしているほど語学が堪能なんですよ」

そう話す國岡さん自身も、仕事に役立つスキルを着実に磨いている。この会社で働きながら福井県立大学大学院の経済・経営研究科で経営学を学んだのだ。
「就職するまで、一度も経理の勉強をしたことがなかったんです。先輩たちは丁寧に仕事を教えてくれましたが、上司との差を感じることもありましたし、実務的なことは覚えられても、根本的な知識は欠けたままでした。例えば、経理は基本的に簿記の知識を利用して進めるのですが、私たちのような中小企業では税法に基づいた会計処理が必要なケースもあります。その理由がわからないまま仕事をしていたんです。
でも3年ほど前、県立大学のオープン講座で経理を学ぶ機会があって、それをきっかけに本格的に経理を学ぼうと思うようになりました」
退勤後に高速道路を駆け抜け大学院に通う
同大学院の博士前期課程は通常2年コースだが、社会人学生のために3・4年かけて学べる長期履修制度がある。國岡さんはこの制度を利用して3年かけて経営学修士の資格を取得し、今年3月に卒業したばかり。
「大学院に通うのは、最初の頃は週2~3回でした。5時に退社してから高速道路を使って永平寺にある大学院に向かい、6時から9時まで授業を受けます。課題はその後と、土日を使ってこなしました。
仕事は定時の5時で終わりますし、同居していた両親がサポートしてくれたので、社会人大学院に通うのはあまり辛くありませんでした。課題は多かったし、卒論を書く時期は大変でしたが、学んだことがそのまま仕事に役立てられるので、勉強することが学生時代よりもずっと楽しく感じました」