モノづくりの街へのJターン
3つ目の会社で、谷口さんはいよいよ“天職”に巡り合う。それは石川県にある半導体の工場で、設備管理・工事管理をする仕事だった。
「工場の規模が大きく、システムも設備も非常に複雑。その分、仕事は変化に富んでいてすごく面白かったですね。この仕事を始めて『私のしたかったことはこれなんだ!』と実感できました。職人さんや業者さんと突っ込んだ話ができるように、『1級電気工事施工管理』や『1級管工事施工管理』などの資格も取得しました」
徐々に大きなプロジェクトを任されるようになり、グループ内職員への指導も担当。リーダーとして活躍できる機会も増えてきた2013年、突然工場の売却が発表された。
「15年間、幸せに仕事に邁進してきましたから、あまりのことに呆然としました。売却先に転籍する道もあったけれど、今と同じ仕事を続けられる保証はない。それなら少しでも若いうちに次の道を探そうと退職し、就職活動を始めたんです」
就職先を探すにあたって、最も重視したのは仕事の内容。それまで女性ということで苦労してきた経験もある上、前職ではかなり満足のいく仕事ができていた。それと同じような環境が、果たしてあるのか……。そんな不安を抱えながら就職活動をすること半年、エージェントに紹介されたのが福井県越前市にあるアイシン・エィ・ダブリュ工業だった。
「働き方や仕事の内容は、前職をそのままスライドしたような感じ。違うのは、会社の製品が半導体から、トルクコンバータに変わったことくらい(笑)。まさか、こんなに自分に向いている仕事が見つかるなんて思いもしませんでした」
入社早々、谷口さんにとってラッキーな出来事があった。ちょうど建設中だった新工場の仕事に関われたことだ。
「もともと建築工事には興味があったのですが、実地で勉強できるチャンスはめったにないので、すごく嬉しかったです! 建設直後には工事管理も任せていただいて、無事故無災害で納期内に完了させることができたことも貴重な経験です」

モノづくりを支える“プロの裏方”
就職と同時に越前市に住み始めて1年半。この街には学生時代から新卒までを過ごした大阪、そして出身地であり、キャリアの大半を築いた石川とはまた違った魅力があると谷口さんは話す。
「越前市の人はとても穏やか。この街に住み始めてから、車のクラクションも人の怒鳴り声も聞いたことがないですね。会社でもみんなが気さくに話しかけてくれますし、すれ違うたびに挨拶や会釈をしてくれる。入社してすぐ、開放的でいい会社に勤められてよかったとホッとしました」
谷口さんは前職時代、『第二種電気主任技術者(※)』の資格を取得した。社員数3,498名(2016年3月末)のアイシン・エィ・ダブリュ工業でも、この資格を保有する社員は谷口さんを含めて2名。福井県内でも100人いるかどうかという貴重な資格保有者であり、現場経験も豊富な谷口さんには大きな期待がかかっている。
谷口さん自身も、この会社で挑戦したいことがある。
「工場や設備は、『ライフサイクルコスト』といって、維持するために大きなコストがかかります。でも、設計段階からそのコストを削減できるようなプランを作っておけば、将来的に会社の負担がぐっと減ります。そんなプランニングの仕事をしてみたいですね。チャンスが訪れたときのために、もっと勉強して施工管理の資格を取るつもりです。 モノづくりの会社に所属していても、私自身が何かを作るわけではありません。でもエンジニアとして、こんな風にモノづくりと関わるのもありだなって思うんですよ」

※新卒者の方、転勤者の方、公務員の職に就かれる方などは対象外
■UIJターン就職奨励金
http://www.city.echizen.lg.jp/office/060/010/uij.html
■問い合わせ先
越前市役所 産業政策課 TEL 0778-22-3047
取材・文:市原淳子 撮影:佐々木実佳(ブロウアップスタジオ)