就職を機に移り住んだ京都から故郷の越前市にUターン後、100年続く味噌づくりの会社に入社。積極的に子育て支援に取り組む同社での理想的な働き方とは?

vol.8 奥田照美さん(50歳)●マルカワみそ・出荷リーダー

 共働き率全国ナンバーワン(※)で、かつ出生率も全国上位を維持するなど、女性が産みやすく働きやすい環境が整っていることで有名な福井県。その中でも中央部に位置する越前市は、女性の就労や子育てについて、とりわけ手厚い支援体制があることで知られている。

 今回は、京都から越前市にUターンし、結婚出産を経て老舗の味噌づくりの会社に勤めた奥田照美さん(50歳)に、職場環境や子育て事情などについて聞いた。

忙しすぎる環境を変えるためにUターンを決意

 味噌はステンレスタンクで仕込むのが主流のなか、今では希少な木桶で仕込み、約1年間じっくり熟成させる。

 1914年の創業以来、そうした手間暇のかかる天然醸造での味噌づくりを伝承してきたのが越前市のマルカワみそだ。味噌の基本となる大豆、米、塩にもこだわり、主に有機栽培や自然栽培の原料を使用するなど、限りなく「自然・天然に近い素材と製法」を用いた味噌づくりを行っている。

 100年以上にわたり、実直においしい味噌を醸し続けてきたこの会社が、奥田照美さんの現在の勤務先だ。

 越前市生まれの奥田さんは高校卒業後、京都の美容室に就職。働きながら美容師の資格を取得して3年ほど勤め、24歳の時にUターンした。

 「美容師にはなりたくてなりましたが、あまりにも忙しすぎました。毎日仕事の後に夜11時までレッスンしたり、休日は講習会に行ったり、除夜の鐘を聞くのはタオルを干しながらだったり。そんな環境を変えたくて越前に戻ったのです」

 帰郷後は地元の美容室に職を得て、27歳で結婚し、翌年に第1子を出産。第2子を出産したタイミングで美容師を辞め、専業主婦となった。

 「美容師は土日が仕事なので家族とすれ違いになりますし、なにより自分で子どもを育てたいという思いがあって。3人目も出産し、10年近く子育てに専念しましたが、末っ子が5歳の時に経済的な理由から働く必要が出てきたのです」

 美容師に戻るという選択肢もあったが、10年間のブランクに不安感があり、断念。そんななかで出会ったのが、マルカワみそだった。

 「実は、叔母と従姉妹が働いていたので紹介してもらったのです。今でも忘れないのは、働き始める前に“その会社ってどんなん?”と従姉妹に聞いた時の答え。“仕事に行きたくないという日が1日もない”と。仕事の内容はどうあれ、楽しい職場なんだろうなと想像できました」

 その従姉妹の言葉を、奥田さんもほどなく実感することになる。


※ 福井県の共働き率56.8%、全国平均45.4%(総務省「平成22年度国勢調査」より)