越前市を離れ、大学進学・就職するもUターンを決意。1500年の歴史を誇る越前市の伝統工芸「越前和紙」の伝承者として、国内のみならず世界への発信を目指す。
vol.10 長田 泉さん(27歳)● 長田製紙所

共働き率全国ナンバーワン(※)で、かつ出生率も全国上位を維持するなど、女性が産みやすく働きやすい環境が整っていることで有名な福井県。その中央部に位置する越前市は、女性の就労や子育てについて、とりわけ手厚い支援体制があることで知られている。
今回は、家業の手漉き和紙づくりに携わる長田泉さん(27歳)に、越前市へのUターンを決めた理由や仕事などについて聞いた。
いにしえより伝説とともに伝承されてきた越前和紙
さかのぼること奈良時代に国府が置かれ、北陸の政治・経済・文化の中心地として繁栄した越前市。古くからモノづくりの町としても知られ、国の伝統工芸品に指定されている「越前和紙」「越前打刃物」「越前箪笥」といった伝統産業が受け継がれてきた。
なかでも、1500年前に美しい姫によって紙漉きの技術が伝えられたという伝説を持つ越前和紙は、手漉き和紙において日本一のシェアを誇る。清らかな水を使って一枚一枚漉かれる越前和紙は、日本で最初の紙幣に採用されたり、横山大観やピカソといった有名画家に愛用されたりと品質の高さでも名高い。その産地である越前市に流れる岡本川に沿った五箇地区には和紙業者が軒を並べ、「紙漉きのまち」とも呼ばれている。
この地で、およそ140年前に越前初の手漉き襖紙を手がけてから、四代にわたって越前和紙づくりに勤しんできたのが長田製紙所だ。現在では、手漉き和紙の伝統技法を守りつつ、襖紙デザイン・製造のほか、美術工芸紙、照明器具など様々な和紙製品を世に送り出している。
四代目の長女として生まれた長田泉さんは、「大学に進学するまで、家業にはまったく興味がなかった」と話す。越前に生まれ育ち、一度も行ったことがなかった「海外」に憧れ、外国語学部のある大阪の大学に進学。2年生のときにイギリスに留学し、そこを拠点に巡ったヨーロッパの国々をはじめ、卒業までに26カ国を旅した。
さらに、海外熱は高まり、卒業後は東京にある秘境専門の旅行会社に就職。「その会社に入れば、1カ月に1回は添乗員として様々な国に行けるということが志望動機でした。ただ、入社したときはすでに、3年ぐらい勤めたら辞めて、実家に戻ろうと考えていました」
