自分の希望を率直に伝え、やりたいことを実現
「タケフナイフビレッジ」は、越前市が誇る伝統工芸「越前打刃物」を手がける12社が集まった協同組合の拠点で、共同工房や直売所を備えている。
この協同組合に雇用されている東さんは、直売所での接客や事務、ホームページの作成・更新など幅広い仕事を担っている。
「やりたいことに挑戦させてくれる職場なので、未経験ながらネットショップを立ち上げたり、海外への商品送付をできるようにしたりといろいろ形にできることが楽しいですね。また、接客にもやりがいを感じています」
近年は「タケフナイフビレッジ」にも外国人客が増え、ピーク時には年間で約600人が訪れた。もちろん、得意の語学を活かして東さんが対応している。
「つくり手とお客様のつなぎ役として、越前打刃物の素晴らしさや、職人の技と想いを自分の言葉でしっかり伝えたいと思っています。購入してくださったお客様の喜びの声を聞いたときなどは、本当に嬉しいですね」
外国人客の中には専門的な質問をするナイフマニアも多く、「答えられないとすごく悔しいので、まだまだ勉強しなければ」と意欲的だ。
仕事だけでなく、東さんはプライベートでもアクティブ。ジムに通ったり、月に数回フットサルをしたり、知人の依頼で地元の和太鼓チームを教えたり。「倭」にいた頃は朝10kmのランニングから始まっていたので、今も「力が有り余ってる」と笑う。さらに、8時半から5時半までの就業時間以降に副業も。
「仕事が定時に終わるので、その後暇だなと思って。もともと副業は禁止でしたが、お願いしたところ許可して頂けたので、週に1~2回、友人のラーメン店を手伝っています。何でも相談しやすい職場環境はとてもありがたいですね。私の他に3人の女性が組合で働いていますが、すでにお子さんから手が離れていたりで、産休や育休を取得した人はまだいません。ただ、私が今後必要になって相談したら、柔軟に対応してもらえるかなと期待しています(笑)」
これまで身につけたことを地元に還元
「倭」での海外生活を経て、現在は越前市での生活を全力で楽しんでいる東さん。一旦外に出たからこそ、昔は何もない田舎だと思っていた地元の魅力が見えてきたという。
「4年間住んでいたオランダのアムステルダムも、街には水路が流れ、カフェで人々がゆったりお茶をするといった素敵な雰囲気でしたが、越前市にはまた別のよさがあります。それを実感したのは、海外の友人がこちらに遊びにくると聞いたとき、“案内したい場所がたくさんある!”と思えたことですね」
実際に、オランダの友人たちが遊びにきたときは、「タケフナイフビレッジ」をはじめ、「越前和紙の里」や「越前箪笥」の工房が立ち並ぶタンス通り、古い建物や日本庭園がある「万葉の里味真野苑」などを案内し、越前のものづくりを通して日本文化に触れてもらった。
「なかでも、包丁づくり体験が大好評でした。オランダには山がないので、越前の街を取り囲む山並みの美しさにも感動していました」
東さんも「自然の景色に毎日癒される」という越前市は、「住む」ということに適した地域でもあるという。
「特に、子育て世代は住みやすいと思います。私の周囲にも共働きで子育てをしている友人がたくさんいますし、市の支援制度や子育て支援センターなどの施設も充実していると聞きました。また、人が温かいということも、暮らしやすさにつながっていると思います」
すっかり越前市に根を下ろした東さん。今、目指しているのは、「自分が海外で経験したことや身につけたことを地元に還元していく」こと。
「和太鼓を教えるということもそうですが、英語を活かして越前打刃物などの伝統文化を世界に発信していきたいですね」
取材・文:後藤かおる 撮影:山岸 政仁