大学時代に越前漆器と出会い、福井に移住して蒔絵の修行を積む。結婚を機に、夫の家業である和包丁の柄に特化した製造会社に入社。蒔絵の技術を活かし、伝統工芸の新たな可能性を追求している。
vol.15 山本 由麻さん(30歳)☆ 柄と繪etoe(えとえ)

共働き率全国ナンバーワン(※)で、かつ出生率も全国上位を維持するなど、女性が産みやすく働きやすい環境が整っていることで有名な福井県。その中央部に位置する越前市は、女性の就労や子育てについて、とりわけ手厚い支援体制があることで知られている。
今回は、越前漆器に魅せられ、結婚出産後も蒔絵師としてさまざまなチャレンジを続ける山本由麻さん(30歳)に、仕事や子育てなどについて聞いた。
伝統工芸の裏方に光を当てたギャラリーをオープン
山本由麻さんが運営するギャラリー「柄と繪」が位置するのは、越前市の南東部。約700年の歴史と技術が高く評価され、刃物産地としては全国で初めて伝統工芸品の指定を受けた「越前打刃物」の工房が集まるエリアだ。
この「柄と繪」で触れることができるのは、刃物の町で110年にわたり和包丁の柄をつくり続けている山謙木工所の「柄」と、山本さんが手がける蒔絵の「繪(絵)」。通常、単独では表舞台に登場しない和包丁柄や蒔絵にスポットを当てた新発想のギャラリーで、2020年9月のオープン以来、伝統工芸を新たな側面から発信する拠点として機能している。
「開設のきっかけは、福井県の鯖江市や越前市といったものづくりの町で毎年行われている産業観光イベント『RENEW(リニュー)』に参加し、触発されたことです。このイベント会期中に、普段は出入りできないものづくり工房を見てもらうことで、多くの人に関心を持ってもらえることを実感しました。そこで、夫が4代目を務める山謙木工所の柄をはじめ、主に若手職人による越前打刃物を知ってもらう場をつくりたいと思うようになり、山謙が倉庫を新築する際にギャラリーを併設しようということになりました」
静岡県浜松市で生まれ育った山本さん。今につながる美術との接点を持ったのは中学時代だ。気軽な気持ちで入部した美術部で、専門的な絵画技法などを教えてもらったりと部活顧問の熱心な指導に影響を受け、高校は美術系の学校に入学。2年生の頃、静岡にある企業美術館「資生堂アートハウス」で開催されていた伝統工芸展で漆工芸の美しさを知り、東京藝術大学に進学して漆芸を専攻した。
「ただ、大学では自分のやりたいことを学んでいたけれど、将来どうするか悩んでいました。そんなとき、学内のチラシで知ったのが、福井の伝統工芸を体験できるインターシップです。進路を考えるにあたり、“視野を広げたい”との思いから、大学2年の春休みに1か月間、鯖江市にあるお椀の上塗りをやっている越前漆器の塗師屋さんにお世話になりました」
この体験を通じて「福井の人のやさしさや職人の仕事に惹かれた」山本さん。その後も、夏休みや冬休みに訪れ、そのたびにこの地への思いが強くなり、卒業と同時に福井に移住。越前漆器の仕事に従事することを選んだ。