ものづくりの楽しさが体感できるワークショップを開催

山本さんが自分の仕事として選んだ越前漆器は、生産工程に大きな特徴がある。それは、産地全体で分業体制が確立しているということ。伝統的な木製の漆器であれば、大まかに木地製作、塗り工程、加飾(蒔絵など)に分かれている。この工程の中で山本さんが携わっているのが蒔絵だ。
「蒔絵は奈良時代から始まり、今に受け継がれている装飾技術です。漆で紋様を描き、金銀などの金属粉を蒔いて表面に付着させ装飾を行うのですが、紋様が華やかに浮かび上がるところが魅力ですね」
蒔絵師として腕を磨いていた頃、越前漆器や越前打刃物の若手職人の交流会で山謙木工所4代目の山本卓哉氏と知り合い、18年に結婚。これを機に越前市に引っ越し、出産を経て同社に入社した。
現在、山本さんは大きく3種の仕事に携わっている。ひとつは、自社の柄に漆加工をする際の蒔絵の装飾、および塗り工程の外部への発注。2つ目は、越前漆器に施す蒔絵の職人仕事。そして、3つ目は、「柄と繪」での接客販売やワークショップの運営だ。
「仕事の中でも特に、漆器の職人に求められる“多数の器に同じ絵を描き、そのクオリティを保つ”ことに苦戦しています。ただ、美しい工芸品の器には、普段の料理を素敵な食事に見せるパワーがある。そんな漆器づくりを目指して、日々努力しています」
一方、「柄と繪」を運営する中で力を入れているのが、月に1回開催しているワークショップだ。自社だけで開催するほか、越前打刃物を製造販売する近隣の「龍泉刃物」や「タケフナイフビレッジ」とコラボレートしたワークショップを開くこともある。
例えば、午前中は「龍泉刃物」での包丁研ぎ体験、その後「柄と繪」のキッチンスペースで「龍泉刃物」のカトラリーを使用しながらランチを食べる食体験、午後は包丁の柄に漆で絵を描く漆体験という流れで、自分だけの「My包丁」を完成させるワークショップなどが好評だ。
「私は漆文化が身近にはない地域で育ち、漆や工芸を学ぶ中でその難しさやものづくりの楽しさを知りました。この楽しさをできるだけ多くの人と共有したいという思いで、ワークショップの企画を考え、開催しています。伝統工芸と聞くと、“敷居が高そう、扱いが難しそう”と近寄りがたいイメージが先行しがちなので、参加いただいた方にお手入れのコツなどをお話して、身近に感じてもらえたらという狙いもあります。ワークショップを通して、漠然とした伝統工芸品の“気難しさ”が和らぎ、親しみを持ってもらえたら嬉しいですね」
