子どもの成長のプラスになる豊かな環境が魅力

 蒔絵師として意欲的に仕事に取り組む一方、プライベートでは結婚と同年に出産した男児の子育ての真っ最中。夫の実家に同居しているため、サポートしてくれる家族の存在はもちろん、越前市の子育て環境にも助けられている。

「コロナの様子を見つつ、20年6月に子どもをスムーズに保育園に預けることができました。おかげで、『柄と繪』の開設準備が進み、その年の9月にオープンすることができました。保育園の送り迎えは私がしていますが、標準で18時まで預かってもらえるため、仕事をしている母親としてはありがたいですね」

 加えて、越前市は「公園がとても充実している」ところも、子育てをする上でのお気に入りポイント。例えば、武生駅のすぐ近くにあり、気軽に立ち寄れる「てんぐちゃん広場」は、無料で利用できる全天候型の屋内広場。「福井の冬は外遊びがしにくいので、屋内でのびのびと安全に遊べる場所があるのは最高です」と山本さん。

「コロナ禍は中止していましたが、毎年8月に行われる越前市のイベント『千年未来工藝祭』では、和紙漉き体験や木工体験など越前の職人さんたちによる子ども向けのワークショップも開催されます。3年ぶりに開かれた今年、越前箪笥のワークショップで、息子がミニカーづくりを体験しました。職人さんに手を添えてもらいながらノコギリを握り、なんとも真剣な表情でものづくりを楽しんでいました。身近な場所で3歳という年齢から、こうした経験ができる息子がうらやましいぐらいです(笑)」

 また、絵本作家のかこさとしや、絵本画家のいわさきちひろが生まれた「絵本の町」として、かこさとしふるさと絵本館があったり、ちひろの生まれた家が公開されているなど、地域の産業や文化が大切にされ、気軽に親しめることが越前市の魅力だという。

「福井に限らず、日本には漆工芸を専門的に学んだ人の受け皿が少ないので、ひとりでも多く漆工芸で生活できる人材を増やし、応援していきたいと考えています。その一環として、今年の夏、『柄と繪』ではインターンとして数名の学生に来てもらいました。来年春には、新入社員も採用する予定です。私が福井の方々にあたたかく受け入れていただいたように、今度は私が少しずつ若手の受け皿となって、漆工芸の楽しさを一緒に発信していきたいです」

木の香りが漂う明るいギャラリー内には、高級感のある漆の柄からポップなイラストをあしらった柄まで個性派が並ぶ。ここでお客様と対話しながら商品を販売することも、山本さんの重要な仕事のひとつ
木の香りが漂う明るいギャラリー内には、高級感のある漆の柄からポップなイラストをあしらった柄まで個性派が並ぶ。ここでお客様と対話しながら商品を販売することも、山本さんの重要な仕事のひとつ
福井県越前市で働く
越前市には、認定こども園と保育園が私立・公立合わせて計24園ある。認定こども園とは、幼稚園と保育園の両方の機能をあわせ持ち、地域の子育て支援も行う施設のこと。保育園では通常の保育のほかに、延長保育、休日保育、一時預かりなどがあり、柔軟な対応で働くママやパパを応援する。

取材・文:後藤かおる 撮影:山岸 政仁

* この掲載記事の年齢、役職などは取材のものです

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