女性活躍推進に積極的な企業が増える中、「女性リーダーは、ジェンダーバイアス(性差に対する偏見)を持つ部下や昇進に不満を持つ部下から、水面下でハラスメント被害を受けているという実態があります」と指摘する弁護士の井口博さん。近年はサイバーハラスメント(ネット上で中傷被害を受けること)が増え、いっそう被害が顕在化しづらくなっています。社会全体で人権意識が高まる中、ハラスメントの放置は企業の炎上に発展する可能性も。今回はサイバーハラスメントの対処法と、今年改正法が施行され、発信者の情報開示請求裁判を容易にする「プロバイダ責任制限法」、厳罰化した「侮辱罪」の最新情報について解説します。

(1)部下が上司に嫌がらせ 逆パワハラを防ぐ3つの方法
(2)ネットで中傷されるサイバーハラスメント 職場の対策は ←今回はココ
(3)内部通報制度の整備を義務付け 企業が取るべき対策は?

職場のサイバーハラスメント 個人だけでなく企業にも被害

 サイバーハラスメントとは、インターネット上におけるハラスメントのことをいいます。「サイバーブリング」「オンラインハラスメント」ともいわれ、ネットを介したハラスメント問題はグローバルに広がっています。

 典型的なものは、企業へのハッキングなどのサイバー攻撃のほか、社内でのメールやLINEのやりとりでのハラスメント、Twitter、Facebook、InstagramなどのSNSによるハラスメント(SNSハラスメント)。テレワークに関するハラスメント(テレハラ)もこのハラスメントに含めてよいでしょう。誰もが簡単にSNSへの書き込みができるようになり、匿名だからと軽い気持ちで書き込む人が多くなっています。

■インターネット上の誹謗(ひぼう)中傷に関する相談について

※出典:「SNS上での誹謗中傷への対策に関する取組の大枠について」(総務省)
※出典:「SNS上での誹謗中傷への対策に関する取組の大枠について」(総務省)

 主な被害内容は、名誉毀損やネット上に個人のプライバシー情報を無断で公開する“さらし行為”。デマやフェイクニュースによる被害も深刻で、いったんハラスメントの情報が投稿されると一気に拡散されてしまうリスクがあります。個人だけではなく企業や自治体などにも対象は広がり、誰もがいつSNSハラスメントの被害者になるか分かりません。

女性リーダーへの逆パワハラは水面下で起きやすい

 職場におけるサイバーハラスメントは、主に社内の人間関係で生じる個人へのハラスメントと、企業自体が攻撃対象になる社外からのハラスメントに分けることができます。その双方が企業にとって大きなダメージを受けるので、日常的にリスク管理を行うことが重要になります。

 社員間のトラブルの典型例として、部下が上司に不満を持っているとき、直接メールやLINEでその不満を伝えることができないときの手段として、SNSの掲示板を使ったSNSハラスメントをすることがあります。特に女性リーダーは、ジェンダーバイアスを持つ部下や昇進に不満を持つ部下から、面と向かっては言えない形でのハラスメント被害を受けることがあります。逆パワハラは、本人のマネジメント能力の問題とされることを避けるため、多くの被害は表に出ることがありません。

 事例が特定されないように設定を少し変えますが、逆パワハラ被害が裁判に発展した例もあります。