「交渉」が賃金格差に影響
男女間の賃金格差について、女性が男性と比べ、賃金に関する交渉を会社としないことが主要な原因であるということを指摘した米国の研究があります(*5)。ただ、日本では個別の交渉で賃金が決まることは一般的でないため、要因として当てはまらないと考える人もいるかもしれません。
早稲田大学教育・総合科学学術院教授の黒田祥子さんは「日本では米国のように採用面接の際に賃金の個別交渉を行うことは一般的ではないかもしれません。ただし、賃金などのさまざまな労働条件について積極的に交渉を行うことの上司や周囲の受け止め方が男女間で違っており、女性が企業内ではしごを上がっていくときに何かしらのひずみをもたらしている可能性はあります」と話します。
例えば、厚生労働省所管の独立行政法人である労働政策研究・研修機構が13年に行った「男女正社員のキャリアと両立支援に関する調査」では、一般従業員の昇進希望について、「役付きでなくてもよい」と答えた男性は約3割だった一方、女性は約7割でした。この結果を見ると、「女性管理職を増やしたいと思っても、手を挙げる女性が少ないからどうすることもできない」と考えられがちです。
「着目すべきは、女性の昇進意欲の低さは、果たして本人だけの気持ちで成り立っているのかという点です。『管理職に興味があるか』と上司に聞かれたときに『いや、私なんか』と答える女性が多い背景には固定観念が大きく関係しています。幼少期から女性は強く主張せずにおとなしいことをよしとする社会規範の中で育ち、無意識のうちに、交渉をしない、手を挙げないというトレーニングを受けてきてしまっているのです。
欧米のように直接賃金交渉をする場以外でも、責任ある仕事をする機会があった際に『私に任せてください』と手を挙げることにちゅうちょしたり、考課面談で自分がどれだけ頑張ってきたかをアピールしなかったりするため、男性より消極的だと捉えられてしまいます。そうした控えめな姿勢やそれに対する評価が積もり積もって昇進、賃金格差に関係してくることはあると思います」