35年で大きな変化も
35年間で15.5ポイント縮小した日本の男女間賃金格差ですが、黒田さんはこの数字をどのように捉えているのでしょうか。
「15.5%ポイントの縮小は、もちろん大きな前進だと思います。以前、賃金の研究を行った際、1960年代、70年代の男女の年齢別賃金を比較しようとデータを探したことがあったのですが、統計データでは30代以上の女性の賃金データが一部欠損していることが分かりました。
データが存在しなかった理由は、30代以上でフルタイムの正社員として働き続ける女性の割合が少なかったからだと思われます。その時代に比べると、今は女性の就業率が上がったことで、日本人女性の就業状況の特徴を表したM字カーブが解消傾向にあり、まだ少ないながら女性の管理職も徐々に増えつつある点など、労働市場のポジティブな変化はあります。とはいえ、非正規雇用で働く女性が増えていることがM字カーブ解消要因の大部分を担っているなどの課題を認識する必要があります。
残る格差解消がこれからの課題となってくるのではないかと思います。この残された約25%の格差を埋めるためには、社会規範を大きく変えることが鍵となりますが、それが大きな壁でもあります。社会規範を変化させていくためには私たち一人ひとりが持つ固定観念をまずは解消していく必要があり、それにはおそらく多大な時間がかかるからです」
ただし、社会規範は変わらないわけではなく、教育や国の政策によって変化させていくことはできます。例えば、1993年から中学校の家庭科が全生徒に対して必修化されたことで、性別役割分業意識への変化が見られたという興味深い結果が示されています。中学校における家庭科受講が将来の家事労働時間に与える影響を調べた2021年の論文で、家庭科を受けた男性のほうが、受けていない男性より、週末の家事労働の時間が多くなっていることが報告されているのです(*6)。