賃金格差の原因の1つとして指摘されているのが、一般職や限定総合職などに代表される「コース別雇用管理制度」。一般職や限定総合職には女性が多く、勤務地などが限定される一方、賃金が低く抑えられがちです。今回は、コース別雇用管理制度の廃止を男女間賃金格差の縮小につなげようと取り組む2企業の担当者を取材しました。記事後半では、コース別雇用管理制度を見直す動きについて明治学院大学経済学部教授の児玉直美さんに聞きました。
グローバルな人事制度に合わせるため、コース別採用を廃止
2017年に明治安田生命や豊田通商、20年に三井住友銀行などの大企業で一般職が廃止されたように、近年コース別採用を見直す動きが少しずつ広がっています。廃止された理由はさまざまですが、中には男女間賃金格差の是正を目指すという切り口で、一般職や地域限定総合職などの特定職を廃止した企業があります。AIGジャパン・ホールディングス(以下、AIGジャパン)がその1つです。
18年に、AIGジャパンの傘下であるAIG損害保険が、旧AIU損害保険と旧富士火災海上保険の合併により誕生。この合併に先立ち、16年に2社の人事制度が統合されました。さまざまな施策を打つ中で、グローバルな人事制度に合わせるために、一般職と地域限定総合職のコース別採用を廃止したといいます。
「当時、両社では一般職でも経験を積むと地域限定総合職に転換する社員も多かったのですが、総合職と仕事内容はほぼ同じであったにもかかわらず、転勤の有無で一般職出身の社員のほうが総合職社員より給与が低い状況にありました。雇用区分による賃金テーブルの差が、男女賃金格差を生み出す原因になっていたのです。一方、米国本社は職務等級に基づいた、いわゆるジョブ型雇用であり、こうした差はありません。本社の制度に合わせていく形で、グローバルスタンダードであるジョブ型雇用制度を日本でも採用。コース別採用は廃止しました」(AIGジャパン人事部マネージャーの牧野祥一さん)
ところが、雇用区分の統一だけで、賃金格差が埋まるわけではありません。AIGジャパンでも、同じ主任クラスで比べた場合、旧一般職や旧地域限定総合職社員の賃金は、旧総合職社員の6~7割程度にとどまっていました。AIGジャパンは「仕事の責任範囲や難易度が異なるのであれば、賃金に差が生じるのは納得できるが、職務内容が同じなのに過去の属性によって賃金が変わってしまうのはおかしい」と課題を感じていました。