2021年6月発売の『早く絶版になってほしい #駄言辞典』(日経BP)。ジェンダーにまつわるステレオタイプから生まれる400を超える「駄言」を、エピソードとともに紹介している本書を、京都大学レジリエンス実践ユニット特任教授・京都大学名誉教授の鎌田浩毅さんはどう読んだのでしょうか。

人類が生き延びるために、能力がある人が表に出なければいけない

「日本がさまざまな場面で起死回生のブレークスルーをしなければいけない今、『女だから』『男だから』と言っている場合ではない」(鎌田さん)
「日本がさまざまな場面で起死回生のブレークスルーをしなければいけない今、『女だから』『男だから』と言っている場合ではない」(鎌田さん)

 『#駄言辞典』、すごくいい本ですね。今、女性の社会進出の重要性が言われていますが、実際には「ガラスの天井」があります

 新型コロナウイルスの感染を引き金に、世界は行き詰まっています。このような時代だからこそ、若い人に主導権を握らせなくてはいけないし、性別による区別は完全になくさなくてはいけません。この本に何度も書かれている通り、性別による能力差はありません。たまたま性差があるだけであって、その差を理由に、何らかの制限を設けることは根本的に間違っているわけです。

 資源と場所と時間が限られている中で、人類が生き延びていくためには、性別にかかわらず、能力のある人が表に出なければいけない。これが非常に基本的な考え方です。

 僕の専門である地球科学の面から言えば、今は「大地変動の時代」に突入していて、2030年代に南海トラフ巨大地震が来る可能性が高まっています。それに首都直下地震だって、いつ起きてもおかしくありません。南海トラフ大地震の影響を受けて、富士山の噴火も起きるでしょう。この3つの大きな問題を抱えている日本は、他国に比べても大変な状況にあるのです。地盤は変動し、経済は下降線をたどるばかり。少子化にも歯止めが掛かりません。さまざまな場面で、起死回生のブレークスルーが求められている。こうした状況下で、この本は非常によい提言をしていると思います。

「日本を変えなければいけない」という必要性を本気で感じているか?

 今回の自民党の総裁選でも男性が勝ちましたが、日本におけるジェンダーギャップ解消の動きがなかなか本格化しないのは、社会がその必要性を本気で感じていないからです。僕は地震、火山、気象災害という視点から、「今の日本を変えなければいけない」という必要性を切実に感じている。とにかく優秀な人の発想で新しい技術を開発しなければいけない。もう「女だから」とか「男だから」とか言っている場合ではないんです。

 本を読んで、一番、胸に響いたのは、やはり次に挙げる学問分野に関する駄言でした。


【書籍情報】
ジェンダーにまつわる
アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)による
1200もの「駄言」が教えてくれたものとは?


早く絶版になってほしい
『#駄言辞典』

編集:日経xwoman
発行:日経BP
定価:1540円(10%税込)
 Amazonで購入する

【目次】
・駄言とは?
・まえがき
・第1章…実際にあった「駄言」リスト
 女性らしさ/キャリア・仕事能力
 生活能力・家事/子育て
 恋愛・結婚/男性らしさ
・第2章…なぜ「駄言」が生まれるか
 スプツニ子!/出口治明/及川美紀
 杉山文野/野田聖子/青野慶久
・第3章…「駄言」にどう立ち向かえばいいのか
・あとがき