下の5つのイラストは、休んでいるとき、日常生活の動き、スポーツをするときなど、動きの種類ごとの、理想的な体幹の使い方を整理したもの。スポーツ選手や特殊な場面(シーン4・5)では、体幹の深層(インナー)・表層(アウター)の筋肉を総動員する強靭な体幹も必要になってくる。

 しかし、日常生活で重要になるのは、「強靭さ」よりも、深層筋が正しく使えているかどうかだ(シーン2)。まずは、寝ているときと、日常の動きでの体幹深層筋の働きを見てみよう。

【シーン1 休んでいるときの体幹】
【シーン1 休んでいるときの体幹】
【シーン2 日常生活の動きでの体幹】
【シーン2 日常生活の動きでの体幹】

【シーン1 休んでいる時の体幹】深層筋は緩んでいる

就寝中は重力に逆らって姿勢を保持する必要がない。腹横筋、骨盤底筋群、背骨側の多裂筋、横隔膜の、体幹部の深層筋は休んでいる。

【シーン2 日常生活の動きでの体幹】軽いドローインで腰椎を支える

日常生活では、天然のコルセットと呼ばれる腹横筋をはじめ、多裂筋、骨盤底筋など体幹部の深層筋が働くことで、腰椎が安定しつつ、可動性もある状態となる。

 続いて、スポーツをするときなど、体を大きく動かしたり、強い負荷がかかるときの体幹深層筋の働きを見てみよう。

【シーン3 身体をねじるとき】
【シーン3 身体をねじるとき】
【シーン4・5 スポーツ、重量挙げなど】
【シーン4・5 スポーツ、重量挙げなど】

【シーン3 身体をねじるとき】強いドローインで腰椎を守る

身体をねじるとき、深層筋の働きに加えて、必要な動作に応じて段階的に表層筋が働き始める。例えばクロールで泳ぐとき体幹にひねりが生じるため、深層筋のほかに内腹斜筋・外腹斜筋も働いて、フォームが安定する。

【シーン4・5 スポーツ、重量挙げなど】腹圧や表層の筋肉も動員して支える

体がかなり強い衝撃を受けるようなスポーツの際は、腹横筋、内・外腹斜筋と表層の筋肉を総動員して、体幹を固める。例えば体をぶつけるようなラグビーや、非常に重いものを持ち上げる重量挙げといったスポーツなどのときはこの使い方になる。

(図は金岡教授の資料をもとに編集部で作成)

 ここまで、シーンごとに働くべき深層筋の違いを見てきた。体幹は、腹横筋さえしっかり働けば大丈夫と思っていたという人も多いだろう。実際は場面ごとに、こんなに多様に使い分けがされているものだったのだ。

 ここでさらに重要になるのは、「体幹の筋肉を使う順番」だと金岡教授はいう。「深層筋の一番の役割は、体幹を安定させること。最初に深層筋が働いて体幹(腰椎)を安定させたうえで他の筋肉が動けば、筋肉や関節への負担は減る。逆に、いくら体幹部を鍛えても、それらの筋肉が正しいタイミングで働かなければ意味がない」というのだ。

 例えばウオーキング。

 腹横筋が最初に働かないと腰椎が安定しないため、足を前に出すたびに骨盤がぐらつく。すると、表層の腹筋や背筋が何とか姿勢を安定させようと必死で働くことになる。どんなに腹筋を鍛えても、腰椎が安定する順番、つまり「深層筋→表層筋」の順番で筋肉が使えていなければ、歩けば歩くほど筋肉や関節に負担がかかり、腰痛や股関節痛などの原因になるというわけだ。

「自転車のギアも入れ方を間違えると壊れるように、体も正しく操作しないと故障する。痛みを予防するには、深層筋が無意識に先に働く使い方を身につけることが重要になる」(金岡教授)。

 後編では、体幹の筋肉を正しく使えるようになるための方法を紹介する。

金岡恒治(かねおか・こうじ)さん 
早稲田大学スポーツ科学学術院教授
金岡恒治(かねおか・こうじ)さん  スポーツドクター、整形外科専門医・脊椎脊髄病医。体幹深部筋研究の第一人者。2007年より早稲田大学でスポーツ医学、運動療法の教育・研究に携わる。五輪水泳チームドクター、ロンドン五輪JOC本部ドクター。2021年から腰痛の運動療法を提供するSPINE CONDITIONING STATIONのセカンドオピニオン外来担当。著書に『肩こりを治せば、老いも止められる』(高橋書店)、『脊柱管狭窄症どんどんよくなる! 劇的1ポーズ大全 大学教授が開発! 根本から改善! 最新自力克服法』(文響社)など。 

取材・文/長島恭子  写真/稲垣純也  スタイリング/椎野糸子  ヘア&メイク/依田陽子   モデル/鈴木サチ  図版/三弓素青