「髪が細くなった」「抜け毛が増えた」――。加齢とともに増える「薄毛」に悩む人は少なくないでしょう。現在、科学的根拠(エビデンス)がある薄毛の治療法にはどういったものがあるのでしょうか。薄毛治療に詳しい医師に聞きました。短期間で急速に脱毛が進む「円形脱毛症」に気付いたときの対処法も併せて紹介します。

現在、「薄毛」治療で医学的に認められているものは?
現在、「薄毛」治療で医学的に認められているものは?

男性、女性双方で十分なエビデンスがあるミノキシジル

 加齢に伴う頭皮に起こる変化や髪への影響、お薦めの頭皮ケア方法などを解説した第1回に続き、今回は「薄毛治療」の最新事情について聞いていく。

 数多くのAGA(薄毛)診療実績を持つDクリニック新宿院長の小山太郎さんは、「加齢に伴う薄毛の治療薬として男性、女性双方で十分なエビデンスがあり、医学的に推奨できるのは、現在のところミノキシジルのみ。日本皮膚科学会が作成した脱毛症診療ガイドラインで推奨度A(行うよう強く勧める)に分類されている(下表参照)」と話す。

ミノキシジルは脱毛症診療ガイドラインで「推奨度A」の治療薬成分
ミノキシジルは脱毛症診療ガイドラインで「推奨度A」の治療薬成分
日本皮膚科学会による『男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン2017年版』では、科学的根拠に基づいた標準的な治療法が示されている。推奨度は「A:行うよう強く勧める」「B:行うよう勧める」「C1:行ってもよい」「C2:行わないほうがよい」「D:行うべきではない」の5つに分類され、ミノキシジルは男女ともに「A」と認められている。(『男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン2017年版』(日本皮膚科学会)による、治療薬成分や治療法の推奨度をまとめた表を改変)

 「ミノキシジルが毛乳頭細胞に存在するカリウムチャネル(イオンチャネルの一種)を開くことで毛髪のヘアサイクルを正常に整えるさまざまな遺伝子転写が促進され、発毛効果につながると考えられている」(小山さん)

ミノキシジルには発毛に関わる「カリウムチャネル」を開ける作用がある
ミノキシジルには毛乳頭細胞の増殖作用や毛母細胞のアポトーシス(細胞死)抑制作用、毛組織の血流改善作用などがあると考えられている(*1)。小山さんらと日本医科大学形成外科はミノキシジルが毛乳頭細胞に及ぼすメカニズムを解明するため、ミノキシジルの活性代謝物である硫酸ミノキシジルを用いて、24時間培養したヒト毛乳頭細胞に添加。その添加時に生じるカリウムチャネルの開口などをリアルタイム観察した。カリウムチャネルはカリウムを選択的に細胞内外に通過させ、細胞の働きを維持する役割を担う。同研究では硫酸ミノキシジルの添加で細胞外へのカリウム放出、細胞内のカルシウムイオンの濃度変化が確認された。(研究結果は2018年『第26回毛髪科学研究会』で発表)。
*1 日薬薬誌;119,167-174,2002