世界中から依頼が絶えない超人気建築家、隈研吾氏の人生の血肉となった3冊の本、1冊目は「民俗学の泰斗」梅棹忠夫が1960年代に行った集落調査の報告である『サバンナの記録』。隈氏のアンチ・コンクリート志向の原点であり、東京大学大学院で原広司氏に師事し、自ら企画したサハラ砂漠縦断の集落調査につながっていく。
「石垣市庁舎」設計の根底にアフリカ体験
2021年11月に沖縄県で初めて手掛けた建築「石垣市庁舎」が完成しました。赤瓦を葺(ふ)いた大屋根を、段違いにずらっと並べて、草原の中の集落をイメージしました。その感覚の原点には、大学院時代にフィールドワークに行ったアフリカでの、強烈な体験があります。そのアフリカに僕を導いてくれたのが、社会人類学者にして民族学の泰斗、梅棹忠夫さんの『サバンナの記録』(朝日選書)でした。
この本を読んだのは1966年、僕が中学生のとき。初版は65年で、63年から64年にかけて、梅棹さんが集落調査に赴いたタンザニアでの出来事を書き留めたものです。
64年は言わずと知れた東京五輪の開催年で、僕は小学校5年。丹下健三さんが設計した「国立代々木競技場」を見て、なんてかっこいいんだろうと心打たれ、「将来は建築家になる」と決心した節目でした。
東京五輪をきっかけに、僕の住んでいた横浜市の郊外でも、高速道路や新幹線の工事がバンバン進み、のどかな原風景は急激に都市化していました。最初は「すげえな」と圧倒されていましたが、そのうちコンクリートで都市をうずめていくことへの疑問を抱くようにもなりました。
そんなときに、東京大学の建築学科で丹下さんの門下だった黒川紀章さんたちが提唱していたメタボリズムに触れました。生物の新陳代謝のような有機的な建築を標榜したメタボリズムでは、「環境」や「アジアとの共生」といった、アンチ・コンクリートの魅惑的な言葉が並んでいて、僕はたちまち、その思想にかぶれました。
