世界中から依頼が絶えない超人気建築家、隈研吾氏の人生の血肉となった本、3冊目は、吉田健一の『ヨオロッパの世紀末』。高校時代に修道院で読み、その独自のヨーロッパ観に魅了される。「文明とは優雅と諦念」というメッセージはその後の建築家の仕事にも生きていく。(文中は一部敬称略)

高校時代、「黙想の家」で出合う

 カトリックの男子校に通っていた高校1年のときに、吉田健一の『ヨオロッパの世紀末』(岩波文庫)を読みました。読んだ場所も鮮明に覚えています。東京・石神井のイエズス会修道院で開かれていた「黙想の家」に参加したときです。「3日間、誰とも口をきいてはいけない」という“修行”がそれで、友人から「なんか、すごいらしいぞ」と聞いて、やってみようと思ったのです。

 そのときの指導者は大木章次郎さんという、カトリックの世界では怖くて有名な神父でした。大木神父は特攻隊の生き残りで、「あなたたちは『死』に直面したことがない」という言葉を彼の口から聞くだけで、高校生の僕らはビビッてしまう。その怖さたるや、半端じゃなかった。神父は後に日本を飛び出して、ネパールで学校を建てたりされたのですが、まさに伝説的な存在でした。

 今の10代だったら、1分でもスマホから切り離されたら、生きていけないと思いますが、長い「黙想」の時間で触れたのが、吉田健一のヨーロッパ観でした。言わずと知れた吉田茂の長男であり、幼少期からイギリスで教育を受け、ケンブリッジ大学を中退。同時代の知識人の中でも、際立ってユニークな経歴の持ち主です。知識と思考は洗練を極め、ひねくれ具合も超一流。そんな人物による、このエッセーを一言でいうと、これもやはり僕の人生のテーマである「近代批判」なんですね。

カトリックの学校では、反面教師として西欧文化を知りました
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