読んだときはまだ10代ですから、優雅と諦念が建築という世界でどう役立つかなんて、分かりっこありません。ただ、10代で「諦念ってカッコいいんだ」と感銘を受けたことは、その後の人生に明らかに役立ちました。その一つに、日本ならではの木造建築を、西洋の石の文化に気後れすることなく、世界にぶつけられたことがあると思います。

 実際、この本で描かれる「ヨオロッパの世紀末」みたいなものを、日本は歴史の中で何度も繰り返しているわけです。平安末期や千利休が生きた時代なんて、まさにそうです。利休による「わび」「さび」は、物質的、成り金的なものに対する否定で、日本にはもともとそういうアンチ近代の精神がある。

 建築でいうと、重厚でデコラティブな石造りではなく、ましてやガラスやコンクリートの超高層タワーでもなく、木造のボロ家を美しいと愛(め)でる感性。それこそが、世界の建築界で埋もれずに闘っていくための、強力な武器になっているのです。

 梅棹忠夫の『サバンナの記録』、上野千鶴子の『家父長制と資本制』、そして吉田健一の『ヨオロッパの世紀末』。僕の挙げた3冊は、一見、脈絡がないのですが、僕の中では全部「アンチの精神」でつながっていますね。

取材・文/清野由美 写真/木村輝

日経BOOKプラス 2022年5月23日付の記事を転載]

“隈建築”はどのようにして進化を遂げたのか

隈研吾氏が設計した国内の見るべき作品50を紹介。それぞれの魅力をキーワードで分類、カラーイラスト満載。専門的な解説、本人のロングインタビューも収録。旅先のガイドブックとしても使える一冊。

宮沢洋(画文)、日経BP、2640円(税込み)