伝え方が下手なせいで、ひょっとして損をしていませんか? 私たちには、「つい、言い過ぎやすい」「相手の言い過ぎに過敏になりやすい」性質があるといいます。脳科学者の中野信子さんによると、コミュニケーションがうまい人は皆、知らず知らずのうちにこの性質への配慮ができているそうです。

 どのように伝えれば、自分自身がストレスをためずに良好な人間関係を築けるのでしょうか。本企画は、読者の皆さんの体験談を基に、中野さんと「うまい伝え方」を考えていきます。  

「つい、言い過ぎる」のは本当に仕方ないのか?

 ついつい言い過ぎて、後悔してしまった経験は誰にでもあると思います。何気ない言葉で相手を傷つけてしまったり、本音で話した結果、思いやりの気持ちが欠け、関係性が壊れてしまったり。私自身も、言い過ぎで反省することはよくあります。

 また、今は「建前や嘘ではなく本音を言ったほうがよい」という風潮もあって、ネットで相手を論破できる人がもてはやされたりもしています。実際に、議論をして相手を打ち負かせば「気持ちよさ」を感じることもあるでしょう。

 一方で、相手の鋭い言葉に、「そこまで言わなくても」と感じたことがある人も多いのではないでしょうか。私たちが人間関係で感じる悩みの多くは、この「言い過ぎ」という問題が関係しています。

 人はなぜ「言い過ぎて」しまうか。よりよい人間関係、そしてコミュニケーションを築くために、この点に注目していきます。

 私たちが「つい、言い過ぎてしまう」のには、私たち人間のいくつかの性質が関係していると考えられます。ここでは、そのうちの2つについてお話ししましょう。

「論破したい気持ち」を生み出す2つの性質

 まず1つ目が「性格遺伝子」――つまり、脳の性質をはじめとする遺伝的な要素が私たちの性格の一部を決めていて、それによって「言い過ぎ」が起こっているということです。なかでも考えられるものとしてはドーパミンの分解酵素やセロトニントランスポーターが挙げられます。こうした脳内の神経伝達物質の働きについては、次回の記事で詳しくお話ししていきます。

 2つ目が、私たちの生物的本能が、私たちを「言い過ぎ」にさせているということです。オオカミの群れはその内部で明確な上下関係が決まっています。ヒエラルキー(階層構造)があって、例えば狩りで獲物が捕れた場合も、ヒエラルキーが上のオオカミからありつくことができる。霊長類――つまり猿や類人猿も同じ性質を持つことが分かっていますので、人間も例外ではありません。

 短期的に、よりエサの取り分を多くするため、生き延びる確率をより高めるためには、ヒエラルキーの中で上を目指すことが意味を持ちます。こうした環境では、いつも本音で話して、仮に意見の対立があれば戦って相手を論破したほうが「得」になるといえるでしょう。

 ただ、我々人間の社会は、言うまでもなくヒエラルキーだけで成り立っているものではありません。コミュニティーやパートナーシップといった互恵的な関係はかなり多くの場面で見られますよね。特に会社やご近所付き合い、ママ友など、長期的な人間関係が半ば強制的に続く場合は、ウィンウィンな関係を築かないと、「得じゃない」どころか、「大変なこと」になります。

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