これまでたびたび話題になってきたパートナーの呼称問題。近年、特に迷う場面が多いのは「他人のパートナーをどう呼ぶか」ではないでしょうか。「ご主人」とは呼びたくない、でも「旦那さん」もどうか――。

漫画家で文筆家の瀧波ユカリさんは2021年5月から、自身が受け持つ雑誌の連載で「夫さん」を使い始めたそうです。その経緯について、聞きました。

「もっといい呼び方があるはず」と探していた

日経xwoman編集部(以下、――) 瀧波さんは2021年5月から、ご自分の連載では他人のパートナーを「夫さん」と呼ぶことに決めたそうですね。どうして、呼び方を変えようと思ったのですか。

瀧波ユカリさん(以下、瀧波) かなり前からパートナーの呼び方に関しては気になっていました。今、私は40代ですが、30代前半で書いたエッセーでも既に触れていました。ただ、当時は呼び方を気にしている人のほうが少数派。気にしない人からしたら「自分や他人の配偶者をどう呼ぼうが自由なんだから、干渉しないで」という雰囲気もあったように思います。

 でも、ここ数年で「もう、ご主人とは呼びたくない」「旦那さんも使いたくない」と、自分の気持ちに限界が来ました。

「自分の気持ちに限界が来ました」と語る瀧波ユカリさん(写真/円山恭子)
「自分の気持ちに限界が来ました」と語る瀧波ユカリさん(写真/円山恭子)

―― どうして、「ご主人」「旦那さん」という呼び方が気になっていたのでしょうか。そこまでモヤモヤしていた原因は?

瀧波 子どもの頃から、「いろんな呼び方があるんだな」と意識していたからだと思います。私の母は配偶者を「旦那」と呼ぶのが、すごく嫌いでした。ただ、母はフェミニズム的な観点からではなく、「旦那」は庶民的でくだけた感じがする、「主人」と呼ぶほうがきちんとしているという考えで、「主人」と呼んでいましたが。

 私は母よりも世代的に若いですし、「今の時代に主従関係を感じさせる主人はないだろう」と。「旦那」はすごく男性優位だという印象でもないけれど、フラットな配偶者という感じもしないし、「ダンナ」という言葉の響きが嫌いな人もいるように思います。

 どうしたものかと考え、いろんな呼び方を気にとめ、自分の中に呼び方の選択肢をストックしてきました。

 例えば、漫画家の伊藤理佐さんは配偶者の吉田戦車さんを「オットの人」と呼んでいます。そのほか、数々の雑誌をチェックしてみると、媒体によって「連れ合い」「パートナー」「配偶者」などの言葉が使われているケースがあります。でも、敬称にすると「お連れ合い」「パートナーの方」「配偶者の方」と文字数が多くなるのが気になってしまって。声に出すにもちょっと長くて、普段使いにするのは難しいかなと。

 「ツレ」や「相方」は友人や仕事仲間にも使いますし、「同居人」も単なる同居人なのか、配偶者なのか関係が見えにくい……。

 もっと何かいい言葉があるはずだと探しているときに、2017年に放送された坂元裕二さん脚本のドラマ『カルテット』で、「夫さん」という呼び方が出てきて、衝撃を受けました。

 そこから数年たち、世の中の流れを見て「もうそろそろ使ってもいい頃だろう」と思い、今年の5月から「夫さん」を使い始めました。

瀧波ユカリさん
「『夫さん』と聞いてもギョッとされないぐらい、人々の耳になじめばいいと思います。呼称の選択肢が一つ増えることになります」(写真/円山恭子)

―― 実際に使い始めてみて、いかがですか。

瀧波 ラクですね! なんていい言葉なんだと思います。私が連載しているのは人生相談なので、夫婦の悩みも寄せられます。「夫に言いたいことが言えない」「あれこれ指図されてつらい」などと、夫の立場が上である悩みが多いんですね。それに対して、「あなたのご主人は」と返すわけにはいきません。夫婦間のパワーバランスをどうにかしたい、という悩みに対する回答で、「ご主人」という言葉は使えないですよ。

 その点、「夫さん」は「夫」という配偶者の呼称に「さん」をつけただけなので、完全にフラット。まだ新しいし、色のついていない言葉なので、使いやすいですね。

―― 周囲の反応はどうですか。

瀧波 まだ誌面上で使っているだけで、対面で使ったことはありません。でも、「夫さん」といわれて「おや?」と感じる人はいるかもしれませんが、腹を立てる人はいないのでは、と思います。驚かれるかもしれませんが、失礼だとは思われないのではないでしょうか。今後は対面でも、草の根活動的に使っていこうと思っています。