新しい言葉はみんなが使えば正しくなる

―― 「主人」「旦那」「奥さま」「嫁」――それぞれの言葉の成り立ちは分かりました。ただ、一度違和感を覚えた言葉を使い続けるには抵抗があります。かといって、新しい呼び方である「パートナー」「夫さん」「妻さん」もいまひとつ定着していません。

飯間 「夫さん」は、相手の夫の呼び方として面白いですね。私は1993年3月18日付の朝日新聞の記事で知りました。日本語学者で、言葉とジェンダーについて発言を続けた寿岳章子さんの活動を紹介するものでした。京都などの生活改善グループの女性が「夫さん」を使っていて、寿岳さんが「面白い発明だ。私も関東で広めたい」と話したというのです。

―― 1993年というと、そこから30年かけて広まってきたのでしょうか。

飯間 近年「夫さん」が使われ始めたのは、SNSの影響でしょう。SNSでは匿名の場合が多いので、家族を話題にするときも「息子くん」「娘ちゃん」などと書きます。他人の配偶者を「夫さん」「妻さん」とも呼びます。それがリアルの世界に広がったのだと見ています。

―― ちなみに「夫さん」「妻さん」は日本語的に正しいのでしょうか。アンケートの自由回答では「呼称に『さん』を付けるのはヘン」という意見もあったのですが……。

飯間 言葉はみんなが使って、広まれば正しくなるんですよ(笑)。

 言葉に対する違和感というのは、いいかげんなものです。嫌われていた言葉が、いつの間にか日常語になることもあります。例えば「オタク」という言葉は、1980年~1990年代前半にかけては、蔑称でした。それが1990年代後半になると、「特定分野に詳しい、すごい人」といった意味合いになり、今では「コーヒーオタクです」などと抵抗なく使いますよね。

 言葉はその時々の社会状況と密接に関係しているので、社会の受け入れ準備が整えば、新しい呼称も定着するかもしれません。