現代における最大公約数的な呼び方は?

―― いろいろな呼称がありますが、違和感のある言葉を使い続けるのもつらいし、他人から呼ばれるのも嫌だ。だからといって、新しい呼称も定着していない――何か今の時代にふさわしい呼び方はありますか?

飯間 私自身は、相手の配偶者のことは「お連れ合い」と言います。伝統的で味わいがあり、気に入っています。「パートナーさん」もいいですね。「パ」にアクセントを置いて「『パ』ートナー」と言うと仕事仲間を連想させますが、アクセントを平板に言うと気軽な感じが出ます。

 ほかには「ご家族」ですね。例えばお土産などを手渡すとき、相手の人が既婚か未婚か分からなければ「これ、ご家族の方と召し上がってください」と言えば、角が立ちません。「家族」の概念は広いので、最大公約数的な呼び方です。

手土産を渡すときは相手への配慮を
相手とまだ親しくなっていない場合は、「必要以上に相手のプライベートに踏み込まない」ことも心がけたい

 パートナーの呼称が話題になるのは、多様性への理解が深まってきたからでもあります。既婚・未婚だけではなく、事実婚や同性婚も考えるべきです。他人のパートナーの話題は繊細であり、「むやみにプライベートに踏み込まない」「必要以上に話題として取り上げない」という配慮も必要です。

 相手が「夫」「主人」など、パートナーを何と呼んでいるかが分かる場合は、それに合わせる方法もあります。

―― 確かに仲のいい友人なら、そのパートナーのことも知っていますが、仕事関係の人など微妙な距離感がある間柄なら、必要以上に詮索しないのがいいかもしれませんね。

飯間 はい。それから、もし自分が「どうしても自分は『ご主人』『旦那さん』と言われるのが嫌だ」というのであれば、勇気を出して相手に伝えることです。呼称に関しては気にしない人は気にしていませんから、言わないと分からないものです。

 実は私も、ある職場で仕事をしていたとき、先輩から「飯間」と呼び捨てにされ、違和感がありました。悩んだ末、思い切って「別の呼び方にしていただければ」と伝えたんです。幸い先輩も優しい人でしたので、私のことを生意気だとは思わず、「飯間くん」と呼んでくれるようになりました。

 呼称に関して言い出すのは勇気が必要ですが、「もしかしたら友人関係が気まずくなるかも」「自分は呼称にこだわり過ぎなのか」と悩まず、伝えてみてはどうでしょう。

―― 呼び方はついて回りますから、自分も相手も違和感なく、気持ちよく使えるといいですね。

飯間 気持ちは言葉にしないと分かりません。「言わなくても通じる」は幻想です。できれば、自分も相手の好む呼び方を聞いて、相手を個人として尊重する。それが自然にできればいいですね。

構成/三浦香代子(日経xwoman) 飯間さん写真/飯間さん提供
イメージ写真/PIXTA

飯間浩明(いいま・ひろあき)
国語辞典編さん者
1967年、香川県高松市生まれ。『三省堂国語辞典』編集委員。日々、新聞・雑誌・書籍・インターネットなど、あらゆるところから現代語の用例を採集している。著書に『知っておくと役立つ 街の変な日本語』(朝日新書)、『日本語をつかまえろ!』(毎日新聞出版)、『つまずきやすい日本語』(NHK出版)、『ことばハンター』(ポプラ社・児童書)、『四字熟語を知る辞典』(小学館)など。