みんな不安だから「正しい呼び方」を求めている

―― 特に注意が必要なのは「他人のパートナーを呼ぶとき」ですね。失敗しないためには、どうしたらいいでしょうか。

中村 実はそれは「正しい呼び方がある」という思い込みかもしれません。最近は正しいか、正しくないかという観点から日本語を見る人が増えているように思います。

 例えば私が講演会をすると、パートナーの呼称に限らず、「この使い方で正解でしょうか」「この意味で合っていますか」と質問されることも多いのですが、私は言葉の裁判官ではないから決められません(笑)。

 でも、みんな正解が分からないし、言葉の使い方によって自分がどういう人間か判断されてしまうことが不安で、「これで正解ですよ」と言ってもらいたいのかもしれません。

―― 確かに正解を知って、安心したいです。

中村 でも、これだけ結婚観や価値観が多様化している中で、「たった1つの正解」を決めてしまうことは、つまらないと思いませんか。それは法律婚、事実婚、同性婚と結婚の形が多様化している中で、「たった1つの正しいパートナーシップ」を決めてしまうことにはならないでしょうか。

 「私は『夫』と呼ぶと決めたんだ」と思っていても、相手が「主人」と呼んでいるなら、その場だけはそれに合わせてもいいでしょう。自分のイデオロギーを貫くよりも、スムーズな人間関係を送るほうが大事だと思いますよ。

パートナーの呼び方に正解を求めるよりも、スムーズな人間関係を築くことが大事
パートナーの呼び方に正解を求めるよりも、スムーズな人間関係を築くことが大事

―― そうすると、パートナーの呼び方に関しては正解を決めなくてもいいし、決められないのですね。

中村 そう思います。私たちも生きているし、言葉も生きています。これからも人々はそれぞれの関係の中で工夫して、いろんな呼び方を編み出していくことでしょう。

 パートナーの呼び方で大切なのは、正解を求めるよりも、相手を尊重して敬意を払い、その時々で臨機応変に使い分けていくこと。そして、新しい言葉を受け入れていくことだと思います。

構成/三浦香代子(日経xwoman) 中村さん写真/中村さん提供
イメージ写真/PIXTA

中村桃子(なかむら・ももこ)
関東学院大学教授
専攻は言語学。上智大学大学院修了・博士。著書に『「自分らしさ」と日本語』(ちくまプリマー新書)、『新敬語「マジヤバイっす」:社会言語学の視点から』(白澤社)、『女ことばと日本語』(岩波新書)、『「女ことば」はつくられる』(ひつじ書房、第27回山川菊栄賞受賞)、『〈性〉と日本語――ことばがつくる女と男』(NHKブックス)などがある。