普段意識することなく繰り返している「呼吸」を少し変えるだけで、副交感神経が優位になり、ザワつく心が落ち着いて記憶力が高まり、免疫機能も整うことがわかってきました。その自律神経を整えるオススメの方法は「10秒呼吸」。そのやり方と、自律神経を介した呼吸の効能、呼吸についてのミニ知識について、運動生理学の専門家に教えてもらいました。

 私たちは1日に2万回以上も「呼吸」を繰り返している。呼吸とは空気中の酸素を取り入れて、二酸化炭素を体外に排出する活動のこと。取り入れた酸素は生命維持に欠かせないエネルギーを生み出す際に使われ、筋肉を動かす収縮運動の原動力になる。

 生命維持に不可欠なため、私たちの意思に関わらず呼吸は行われ、呼吸、自律神経、心拍は相互作用の関係にあるという。

呼吸と自律神経、心拍は互いに影響し合っている

 息を吸うと、副交感神経が抑制されて、心身がリラックスした状態から活動モードに傾くため、心拍数は上がる。逆に、息を吐くと副交感神経の抑制が解除されて活性化するため、心身がリラックスして心拍数は下がる。「心臓は勝手に動き続けるが、心拍は呼吸と自律神経の影響によって変化している。心拍は安静時にも揺らいでいるが、それは副交感神経の抑制と活性化が呼吸に合わせて繰り返されるためだと考えられる」(石田教授)。

 「ただし、呼吸に対する自律神経の影響はあまり大きくない」というのは、運動生理学を専門とする名古屋大学大学院の石田浩司教授。「興奮したりストレスを感じると、自律神経のうち体の活動性を上げる交感神経が優位になり気管支を拡張するが、呼吸への影響はわずかで、多少呼吸が少ししやすくなる程度。逆に、リラックスすると活動性を下げる副交感神経が優位になるが、この副交感神経は呼吸にはほとんど影響しない」という。

 一方、「呼吸で自律神経をコントロールすることは可能」だという。

「ゆっくり長く吐く」がリラックスをもたらす

 緊張や焦り、怒りを感じるときに深呼吸をしたら落ち着いた――そんな経験は誰にでもあるのではないだろうか。それは「呼吸によって副交感神経が活性化されるから」と石田教授は説明する。「正確にいうと、息を吸うときには副交感神経は抑制され、息を吐くとその抑制が解除されることで副交感神経が活性化される」。

 吐くときにだけ副交感神経が活性化されることから、リラックスにはゆっくり長く、深く吐くことが重要になるという。「息を短く吐くと、副交感神経が活性化する間がなく再び抑制されてしまう」という。

 また、副交感神経を優位にするカギが「吐く」ことだからといって「吸う」のを雑にしてはいけない。「吸って抑制、吐いて活性化というメリハリが副交感神経の働きをより促進する」と石田教授は説明する。

 自律神経は、心臓の動きや血液循環、消化、代謝、体温調節などの生命維持活動もコントロールしている。その中で唯一、双方向に働いて、自律神経をコントロールできるのが呼吸だという。