1日2万回以上も意識することなく繰り返している「呼吸」。この呼吸を少し変えるだけで、心や体がリラックスするだけでなく、記憶力や作業の正確性が高まったり、免疫機能が働きやすくなったりします。そのカギとなるのが自律神経です。
 前編では、長く深い呼吸が自律神経を整えること、その効果的なやり方、期待できる効果などについて紹介しました。後編となる今回は、呼吸を長く深くしやすくする「胸郭ストレッチ」を紹介します。長時間のデスクワークやスマホ姿勢が続くと、胸まわりは圧迫され、筋肉が固く縮こまってしまいます。ストレッチで固まった筋肉をほぐして、息を大きく吸って長く息を吐く呼吸で自律神経を整えましょう。

 呼吸をうまくコントロールすることで、自律神経のうちリラックス効果などをもたらす副交感神経を活性化することができるのは前編で紹介したとおり。でも中には「長く息を吐くことができない」という人もいるのでは? 「それは、呼吸筋が固くなっているからかもしれない」と運動生理学を専門とする名古屋大学大学院の石田浩司教授は説明する。

 肺に空気を取り込んだり、吐き出したりする動きは、肺を取り囲むカゴ状の「胸郭(きょうかく)」と「横隔膜」の動きによるもの。胸郭を大きく広げたり縮めたりする肋骨の間にある肋間筋と、胸腔と腹腔の間にある横隔膜が、主に呼吸を担う「呼吸筋」と呼ばれる。

 長く深い呼吸のためには、肋骨や胸椎などの関節と呼吸筋の柔軟性がカギとなるが、デスクワークやスマホ姿勢など前屈みの状態を長く続ける人は、胸まわりが常に圧迫され、筋肉が縮こまったまま固くなりやすい。そこで、この固まった胸まわりの筋肉をほぐすのが今回紹介する「胸郭ストレッチ」だ。

 ストレッチするのは主に、肋間筋とそのまわりの筋肉。「横隔膜はストレッチすることはできないが、特殊な筋肉構造をしているため深く呼吸することそのものがストレッチになる。また、ストレッチで胸郭まわりの動きがよくなれば、横隔膜の動きもよくなる」と石田教授はいう。

長時間のデスクワークはやはり呼吸が浅くなりやすい

 前かがみの姿勢は胸郭まわりの筋肉を固くし、呼吸を浅くする。「呼吸が速く浅くなると、酸素は気道を行き来するだけで肺に届きにくくなる。すると一時的に大きな呼吸をして酸素が肺に入るようにするが、常にゆっくり大きな呼吸をしていたほうが体への負担は少なくてすむ」(石田教授)。定期的なストレッチは深い呼吸のためにも必要だ。

 「深呼吸や胸式呼吸、運動時の呼吸には首や肩、背中、お腹の筋肉も使われる」と石田教授。それらの部位もストレッチしておくとより効果的だ。次のページから、胸郭を中心とした部位別のストレッチ法を紹介していこう。