2015年12月にCOP21(第21回国連気候変動枠組条約締約国会議)で採択された「パリ協定」を機に、世界は脱炭素化に向かって大きくかじを切り始めました。世界がこれほどまでに脱炭素を急ぐ理由は何でしょうか。脱炭素の世界は実現可能でしょうか。私たちの暮らしのなかで、できることは何でしょうか。東京大学教養学部付属教養教育高度化機構 環境エネルギー科学特別部門の客員准教授、松本真由美さんに聞きました。

地球温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」

 「脱炭素」とは、地球温暖化の原因となる二酸化炭素(CO2)などの温暖化ガスの排出量を減らすため、二酸化炭素を排出する石油や石炭といった化石燃料に変わる、新たなエネルギーへシフトすることを言います。

 地球温暖化はすでに、世界中に大きな災害をもたらしています。北極では1979年以降、海氷面積が減少傾向にあり、2020年9月には、米航空宇宙局(NASA)とコロラド大の研究チームが、「北極海の夏の終わりの最小時の海氷面積が、観測史上2番目の小ささになった」と発表しました。

 日本も例外ではありません。18年の「平成30年7月豪雨(西日本豪雨)」では、40年間の気候変動の影響で、総雨量が6.5%増加し豪雨被害が拡大した可能性と、今後同じような大雨が降る可能性が高いことを、気象庁気象研究所が指摘しました。

 実際に、翌19年には「令和元年台風15号」「令和元年台風19号」が発生しました。18年、19年の損害保険の支払額は、1兆円規模の経済的損失となりました。

 異常気象や気象災害の頻発は、「気候変動」から「気候危機」と報じられるようになっています。

 地球温暖化(気候変動)問題に関しては、国際的な取り組みが急がれています。1992年、ブラジル・リオデジャネイロで開催された地球サミットで「国連気候変動枠組条約」が採択されたことに始まり、97年に合意された「京都議定書」の下で取り組みが本格化します。そして、15年12月、世界の脱炭素化のアクセルになったとも言える「パリ協定」が採択されました。

 「パリ協定」は、20年以降の温暖化対策の国際的な枠組みを定めています。「世界共通の長期目標として産業革命前からの平均気温の上昇を2℃より十分下方に保持し、1.5℃に抑える努力を追求すること」「主要排出国を含む全ての国が削減目標を2023年から5年ごとに提出・更新すること」などが指針に盛り込まれ、16年11月に発効しました。

 ところが、世界で2番目の温暖化ガス排出国の米国では、17年1月、地球温暖化論に懐疑的な立場のドナルド・トランプ氏が大統領に就任するや、同年6月に「パリ協定」から離脱する考えを示しました。19年11月に国連へ離脱を通告、20年11月に正式に離脱しました。

 しかし、21年1月の政権交代により新大統領となったジョー・バイデン氏により、同年2月、米国は「パリ協定」に正式復帰しました。

世界のエネルギー起源による二酸化炭素排出量(2018年)。1位中国(95.3億トン)28.4%、2位米国(49.2億トン)14.7%、3位EU(31.5億トン)9.4%、4位インド(23.1億トン)6.9%、5位ロシア(15.9億トン)4.7%、6位日本(10.8億トン)3.2%、7位オーストラリア(3.8億トン) 1.1%、8位ブラジル(4.1億トン)1.2%、9位南アフリカ(4.3億トン) 1.3%、10位メキシコ(4.5億トン)1.3%、11位サウジアラビア(4.9億トン)1.5%、12位インドネシア(5.4億トン)1.6%、13位カナダ(5.7億トン)1.7%、14位イラン(5.8億トン)1.7%、15位韓国(6.1億トン)1.8%、その他(64.9億トン)19.4%
世界のエネルギー起源による二酸化炭素排出量(2018年)。1位は中国28.4%、2位は米国14.7%、3位はEU9.4%と続く。日本は6位3.2%。
(環境省「世界のエネルギー起源CO2排出量 2018年」を基に編集部作成)

 さらに、IPCC(国連の気候変動に関する政府間パネル。人為的な地球温暖化に関する科学的知見を集大成して影響や対策を評価・検討。各国政府から推薦された科学者が参加)が18年10月、「1.5℃特別報告書」を発表。各国の「2050年までにカーボンニュートラル(炭素中立)を実現する」という流れが加速しました。

 同報告書には「産業革命以降の人為的温暖化の速度と、気温上昇を1.5℃に抑制するために、CO2排出量が2030年までに10年に比べて45%削減され、50年ごろには正味ゼロにする必要がある。メタンなどのCO2以外の排出量も大幅に削減される必要がある」と記されています。