ファストリ、信越化学、JR東海、キヤノンは過去5年間で一度も女性取締役なし

 時価総額ランキング上位50社のうち、女性取締役が1人もいないのは、ファーストリテイリング、信越化学工業、東海旅客鉄道(JR東海)、キヤノンの4社だ。調査するとこの4社は過去5年間において、一度も女性が取締役に就いたことはなかった(ファーストリテイリングには女性監査役が就いたことはある)。

 むろん、女性比率だけに注目し、数字を上げることに終始しては本末転倒だ。しかしながら今や先進国が軒並みD&Iを経営戦略の1つとし、財務指標に好影響をもたらすという実績を上げている中においては、ボードメンバーが男性のみで構成されている組織はいびつに映るだろう。投資家のみならず、若く優秀な女性も就職や転職先として「多様性ゼロ企業」を進んで選ぶだろうか? どの企業で従業員として働くか。どんな企業の商品を購買するか。こういった「企業を選ぶ視線」に、今後ますますダイバーシティという物差しが入ってくるのは間違いない。それは個人レベルにとどまらず、日本企業の長期的成長戦略として金融庁も注目する。

金融庁がダイバーシティ経営の遅延解消に取り組む理由

 「企業価値の向上にとって、SDGsの5番目のゴール(ジェンダー平等)は関連性があり、経済成長にはダイバーシティ&インクルージョンが必要だ」。金融庁の初代CSFO(チーフ・サステナブルファイナンス・オフィサー)に就任した池田賢志さんは言い切る。気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)提言の国内実施を含め、サステナブルファイナンスを巡る課題について国内外での取り組みを所掌している池田さんは今、「金融庁のパーパス(存在意義)」として取り組むべき課題に、ダイバーシティ経営の遅延解消を挙げる。

 この問題意識は、2021年6月に施行されたCGC改訂の資料に明確に表現されている。下記を見ると、多様性確保・女性登用について企業に求める行動が一層強まっていることが分かるだろう。

企業の取締役・中核人材におけるダイバーシティに関する記述に変化
◇改訂前コーポレートガバナンス・コード(2018年)
【原則2-4.女性の活躍促進を含む社内の多様性の確保】 上場会社は、社内に異なる経験・技能・属性を反映した多様な視点や価値観が存在することは、会社の持続的な成長を確保する上での強みとなり得る、との認識に立ち、社内における女性の活躍促進を含む多様性の確保を推進すべきである。

◇改訂版コーポレートガバナンス・コード(2021年6月新設)
補充原則2-4① 上場会社は、女性・外国人・中途採用者の管理職への登用等、中核人材の登用等における多様性の確保についての考え方と自主的かつ測定可能な目標を示すとともに、その状況を開示すべきである。
 また、中長期的な企業価値の向上に向けた人材戦略の重要性に鑑み、多様性の確保に向けた人材育成方針と社内環境整備方針をその実施状況と併せて開示すべきである。

(引用)金融庁資料より一部抜粋/21年5月「日経SDGsフェス ジェンダーギャップ会議」