2021年6月の株主総会を通して、上場企業各社が新役員体制を発表した。今年度のキーワードは女性登用だ。金融庁と東京証券取引所が6月、コーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)の改訂版を施行し、「多様性確保」を上場企業に求めている。D&I経営というグローバル基準にいち早く対応し、女性取締役が誕生している企業はどこか。
日経xwoman編集部では、東証1部上場企業2191社の時価総額ランキング上位300社を対象に、女性取締役の人数や個人名を調査した。女性取締役比率、女性取締役ゼロ企業、株価や業績との関連などを分析しランキング形式で発表する。(ランキング結果はこちら「女性取締役ランキング発表 「生え抜き」不在の多様性」)。今回は、女性取締役を増やすことが、企業にとって実益があるのかについて考察する。(文/日経xwoman・臼田正彦)
企業に多様性の確保を要求するコーポレートガバナンス・コード改訂などの影響により、女性取締役の増加傾向が見え始めた日本企業。とはいえ現状では、時価総額上位300社という「とびきりの大企業」であっても、米国や欧州と比べて極めて低い水準にとどまっている。
営利企業で女性活躍が進むためには、ルールや社会的圧力だけでなく、女性活躍の推進にどんなメリットがあるかを示すことも有効だろう。結論としては、企業にとっての実利的なメリットは「ある」といえる。
下記を見てほしい。「女性活躍が進んだ企業だけで見ると、日本企業の平均よりも、過去5年で株価がより上昇している」ことを示すグラフだ。
これは米国のMSCI社が算出する、女性活躍が進んだ企業で構成される「MSCI日本株女性活躍指数」の推移を、女性活躍度を加味しない「MSCI日本株指数」と比べた推移だ。10年前の2011年7月末を起点とすると、2つの指数は当初はほぼ同じ動きだが、15年前後から一貫して女性活躍指数が上回るようになる。
この指数に着目して上のグラフを作成したのは、智剣・Oskarグループ主席ストラテジストの大川智宏さんだ。「15年頃からは、ESG投資のブームが株価に強く影響を与えるようになり、それが女性活躍が進んだ企業の株価を押し上げていることは間違いない」と指摘する。
ESG(エコ・ソーシャル・ガバナンス)投資とは、投資先を選ぶ際に、ESGという基準を考慮すべきだ、という考え方のこと。成長していたり、高い利益を上げていたりするからといって、ESGの面で正しくない経営をしている企業には投資すべきではない、というトレンドだ。このESGを構成する要素の中に、ジェンダーの平等も含まれる。
世界各国の年金基金など、多くの機関投資家がこの考え方を取り入れているため、女性活躍度で劣る企業の株価は上がりにくいという状況が既に生まれているわけだ。
株価が上がりやすいだけでも企業にとってメリットはあるが、それだけではない。女性活躍度が高い企業は、業績自体が良い傾向があるという。