春の大型連休を過ぎた頃から感じ始める心身の違和感。人事異動など職場環境の変化に適応できず、「やる気が起きない」「疲れやすい」など、いわゆる五月病になる人も少なくありません。日々頑張るあなたに、心理士が書いた1冊の本をひもとき、心との新しい向き合い方について、コラムニスト河崎環さんが考察します 。

 日本や世界で、いろいろなことが起こるけれど、カレンダーだけは粛々と進みます。この春、自分だけではなく家族の仕事や学校生活などにも変化があった、という女性は少なくないでしょう。新しい風が吹いて、日々の風景が変わった人、風景や居場所そのものは変わらなくても「見え方」が変わった人。それぞれに思いを抱きながら、とりあえずどこかから聞こえる「よーいドン」の声を合図に、一斉に走り出さざるを得ない……。そんな4月を過ごした人も多かったのではないでしょうか。

 さて、GWで久々のまとまったお休みにホッとしたあなた。GWも明けて通常の日々が戻っていることに、ふとため息をついていませんか。「本当は、しんどいかも」「でもそれを声に出して言ったら、自分がこの一年、もたなくなる気がする」「こんなところで気持ちが折れちゃダメだ」。そんなふうに、真面目なあなたはまた自分を叱咤(しった)していませんか 。そんな私たちの生き方に新しいヒントをくれる1冊に出合うことができました。

この本には「私も見たことのある女性」が書かれていた

 東京で心理カウンセリングルームを開業する臨床心理士・東畑開人さんの新作『なんでも見つかる夜に、こころだけが見つからない』(新潮社)は、迷子になった私たちに「心の処方箋」ではなく「心に補助線」を引いて見せてくれる、新感覚の「読むセラピー」。「あちらの方角に向かえばいい」と明確な指針を示してくれるのが「心の処方箋」だとしたら、東畑さんの本では、言葉で心に「補助線」が引かれることで、気持ちが整理され、以前とは違った見方ができるようになるのです。

心に「補助線」を引く心理学のアプローチによって、こんがらがった心もスッキリ整理されるように
心に「補助線」を引く心理学のアプローチによって、こんがらがった心もスッキリ整理されるように

 東畑さんが心理士として日ごろ行っているカウンセリングをフィクションの形に描き出し、この一見自由でありながら過酷な社会に生きづらさを感じて、どうにか日々を送っている人々の苦悩をほどきます。

 いろいろなエピソードが出てくる中で、この本にずっと一本流れているのは、とある女性の物語。それは「私もどこかで見たことのある女性」でした。