私たちはたくさんの矛盾やジレンマ、不条理に囲まれて生きている。問題にも囲まれている。物事の表と裏、ポジティブ面とネガティブ面、本質と現象、不都合な真実と好都合な虚偽……両方をとらえて俯瞰(ふかん)できると、きっといろいろな課題解決の糸口が見えてくる。コラムニスト河崎環さんがつづります。第1回のテーマは「卵子凍結」です。

加齢。
女の価値が若さだった時代なんて過去のもの、のはず。
でも生き物である以上、生物学的なタイムリミットはある。
どれだけ社会の価値観が変化しても「卵子の老化は止められない」。
いつか結婚、出産したいとは思う。でも今じゃない。
老化してゆく卵子を、今のうちに凍結することができたら。
時間を止めることができたら。
保険だ。私は今抱えている将来への不安を全部解決できる気がする。

だけど、そうやって時間を止めた先にあるものってなんだろう。
卵子の老化は止められない。将来のために、時間を止めることができたら…
卵子の老化は止められない。将来のために、時間を止めることができたら…

あらかじめ将来の妊娠出産を担保する

 卵子凍結への関心が、特にキャリアを持つ若年層の女性の間で確実に高まっているのだという。

 卵子凍結とは、ホルモン剤の投与によって排卵を誘発し、卵巣から直接採卵した複数の未受精卵を凍結保存する技術のこと。比較的若い女性が、病気の治療により卵巣機能の低下が見込まれるときに、あらかじめ将来の妊娠出産を担保するための技術として生まれた。

 だが「卵子の老化」が知られるようになり、不妊に悩む人々の話があちこちで聞かれるようになった近年。特に何か婦人科系の疾患などを持つわけではない働く女性にも卵子凍結のニーズが生まれ、不妊治療クリニックを中心に提供機会が広がった。米国の著名なIT企業が社員の卵子凍結の医療保険適用を発表したり、キャリア女性が自分の卵子凍結を公表したりするなど、話題も豊富だ。「自分の卵子が受精する力を失ってしまう前に」と、比較的年齢の若いうちに自分の卵子を冷凍保存したいと考える女性が、まだ不妊に悩んではいないけれど不妊治療専門クリニックを訪れる。

 いつかは妊娠出産をしたい、あるいはするかもしれない。でもそれは今じゃない、と考える女性たち。自分のキャリアを考えると、人生の想定コース上、今このタイミングで妊娠出産するのは不利だったり、今はもっとやりたいことがあったり、まだ「この人の子どもなら欲しい」と思えるようなパートナーがいなかったり。人生の好タイミングは、人生設計通り、自分の都合通りにはなかなか来てくれないからだ。