高齢出産が怖くなくなる「決して高くはない買い物」?

 卵子を冷凍保存しておけば、「今なら妊娠出産してもいい」と思った頃に融解し、ふさわしい相手の精子と顕微授精できる。まだ自分にとっては「その時じゃない」と考える女性にとって、卵子の老化に甘んじて高齢で出産するリスクは最大の不安要因だ。卵子凍結を、将来に向けての「備え」、または、人生の選択肢を広げるための「保険」のようにとらえる人も少なくない。

 こうやって働いている間にも、あるいはパートナーを探している間にも、時間は刻々と過ぎていく。凍結する卵子は、採卵時の年齢が重要。すべてが受精できるわけではなく、受精に成功した中から子宮へ移植可能なものはさらに少ないので複数個必要だが、自分が若ければ若いほど「卵子に力がある」ので、必要な個数は少なくて済む。

 だが、そのためには費用がかかる。数十万円から、100万円を超えることも少なくない。でも、キャリアを築いて働き続けている女性になら「決して高くはない買い物」、なのかもしれない。何よりも、いつか近い将来、自分が「今が産みどき」と感じた瞬間に「私には若いときの卵子が取ってある」と言えるのは強い。

 望むと望まざるとにかかわらず、いわゆる「ライフイベント」が常に何かしら待ち受ける女の人生。その人生の選択肢を広げる。ライフイベントが何色に見えるかは、その人、そのタイミング次第でまるで変わってくるもの。就活、婚活、妊活、といった言葉に「卵活」が加わったのだ。

「できるだけ早く」

 だが、そんな卵活にも、実のところタイムリミットがある。

 卵子凍結は、高齢出産が怖くなくなるとか、人生の時間の制約から自由になるといったような「女の人生難易度を下げる魔法の裏技」ではない。

 若い頃の卵子があっても、自分も子宮も年を取る。高齢になってからの妊娠・出産は、決してすべてが順調に行くわけではなく、またさまざまな合併症を引き起こす可能性がある。そのため、日本生殖医学会のガイドラインをもとに、多くのクリニックではまず未受精卵子等の採取時の年齢は40歳未満が望ましいとし、融解した卵子の使用は本人が閉経していない前提で45歳未満までと制限を設けている。

 採卵時の年齢が高いほど、卵子の受精する可能性が低くなるために必要とされる卵子の個数も多くなる。本来1カ月に1個排卵される卵子を、若ければ排卵誘発して卵巣から直接10個ほど吸い出すが、30代後半では数十個吸い出しておく必要があるため、体への負担も大きい。

 卵子凍結が妊娠出産の「魔法の裏技ではない」とは、不妊治療に苦しんだ中年世代の女性たちこそがよく理解していることだ。彼女たちは、採卵年齢にせよ出産年齢にせよ「できるだけ早く」と口をそろえる。というのも不妊治療の出費、妊娠後の胎児の成長、高齢での出産・育児など、いくつもの壁を迎えてきたためだ。

 不妊治療が成功せず、出産を諦めた人からすれば、卵子さえ若ければいいということではないのだ。高齢出産の苦労を知る人たちは、すべてがあともう少しでも早かったらと、生物学的なタイムリミットの残酷さも知っている。卵子の時間は冷凍で止まるかもしれない。でも、生きている自分の時間は止まらない。そして、「この人の子なら」と思うような出会いが必ずあるとも限らない。