多くの人が「日本が分断されている」と言う。話し合えず、歩み寄れず、分かり合えず、圧倒的な絶望すら感じる。そんなとき、一つの映画作品を選んでみた。タイトルは『ムヒカ 世界でいちばん貧しい大統領から日本人へ』。ちょうど1年前の2020年10月に封切られた映画だ。
この分断された世の中にいる私たちが今こそ反芻(はんすう)したい言葉がたくさん込められている。

 動画チャンネルで多額のサブスクや広告収入を手にする有名人が、YouTubeで「生活保護受給者やホームレスの命は大切じゃない」と発言する日本。

 炎上から謝罪に至ったものの、学歴エリートかつ成功者と認識されている若い男性タレントがネットで発した優生思想めいた放言に、「またか」とため息をついた人も少なくなかった。

 寛容で洒脱(しゃだつ)で気高くて、子どもたちが「いつかああいう人になりたい」と、「大人になること」に憧れることができる、そんな大人が日本には不在だ。

 日本って、本当に豊かな国なのだろうか?

 いや、そうではないのだ、どうやらそうではなかったのだ、と私たちはうすうす気づいている。

 先進国とは名ばかり、尊敬できず任せきれない政治、誹謗(ひぼう)中傷で人を死に追いやるSNS、広がる一方に見える経済格差、縮まりそうで一向に縮まらない男女格差。そして話し合えず、歩み寄れず、分かり合えず、圧倒的な絶望すら感じる「分断」。

 昨年10月、コロナ禍の中で公開された映画『ムヒカ 世界でいちばん貧しい大統領から日本人へ』が公開された。ウルグアイ大統領(当時)ホセ・ムヒカのすさまじい半生、そして彼が長年親愛の情を寄せた日本を訪れて感じた率直な言葉を、今ここにいる私たちへ伝えてくれる。