行政DX(デジタルトランスフォーメーション)は日本の未来を左右する喫緊の課題。それを推進するデジタル庁は波乱含みで発足しました。「行政DX待ったなし」との共通認識のもと、能力と志のある民間ITエンジニアたちが貢献しているのだといいます。コラムニストの河崎環さんが取材しました。
この夏、マイナンバーカードを取得した。申請サイトにアクセスすると、見づらい画面で複雑怪奇な手順を踏めと指示され、「こうじゃなきゃダメ」と小うるさい諸条件を乗り越え、何度も失敗して、ようやく申し込みに成功した。
受け取りは区役所に来いというから、予約時間に区役所の長椅子に座って待っていたら、ふらりとやって来たサンダル履きの高齢者が「あのー、マイ何とかっていうのが欲しいんだけどね」とカウンターの中をのぞき込んで職員に話しかけている。「マイナンバーカードですか? 申請はされましたか? 紙の通知カードはお持ちでしょうか?」と聞き返され、「え、紙? うちに送られたの? いやー、覚えがないねえ」と、どうやらその人はそこから始めねばならないようだった。
そうかと思うと、番号を呼ばれて立ち上がって行ったスーツ姿の若い男性が、しばらくして「そうですか! まだそんな書類が要るとかなんとか、もういいですよ! 国は私にマイナンバーカードを発行する気なんかないんですね!」と突然怒り出し、憤然と帰っていった。
さて、やっと手にしたマイナンバーカードは、どうもデザインが不格好。カバーには謎の四角が印刷され、「名前欄かな?」と、うっかりそこに油性ペンで自分の名前を書き入れるところだった。
マイナンバーカード取得後にマイナポイントのアカウントを開設するという、さらなる難業に挑んだ友人は、「カードをスマホに読ませて登録し、ポイントサービスと電子決済サービスの選択・ひもづけのために、スマホアプリを入手して作業するんですが、もうそれだけのアプリなのに意味不明に複雑……」と、ため息をつく。
政府があの手この手で国民に作らせようと猛プッシュするマイナンバーカードまわりでさえ、この面倒臭さ、このカオス。社会保障関係の手続きを簡便にするのが趣旨なのに、こんな体たらくでは普及にどれだけ時間がかかるのやら。
日本の行政DXの遅れが、危機的なレベルだ。日本においてDXは今やビジネス界のバズワード、いや喫緊の課題。だが民間企業でも推進困難ケースが頻発するDXを、果たして日本の「紙とハンコ文化」のお役所、行政が実現しうるのか?