東京パラリンピック2020の開会式の模様をテレビで見た人も多いのではないでしょうか。あの大舞台はどのようなプロセスを経て実現に至ったのか。ステージアドバイザーを務めたのは栗栖良依さん。コラムニストの河崎環さんが栗栖さんを直撃、パラリンピック開会式のインサイドストーリーをお届けします。

 2021年8月24日、東京2020パラリンピック開会式。

 開催は、予定の1年遅れだった。コロナだ無観客だ、賛否が入り交じる異様な社会的緊張の中で執り行われたオリンピックの閉幕から2週間あまり。世間では事前に「選手にも出演者にも医療ニーズの高いパラリンピックこそ、不参加を表明する人が多くて開催されないのではないか」と噂する者もいた。

 だが静まり返った国立競技場のあの広いフィールドに「PARA AIRPORT(パラ・エアポート)」と記された空港がプロジェクションマッピングで投影され、四方八方からやって来るいくつもの小さな飛行機の影と、最後に大きな飛行機の影が会場を覆うように飛来したのを合図として、東京2020パラリンピックは始まった。

 「日本国旗の掲揚です。可能な方は、ご起立ください」

 「可能な方は」との言葉にハッとする。立ち上がる脚のない人もいる、そういう式典だ。オープニングアクトから、さまざまなダンサーが色とりどりの衣装で、めいめいのパフォーマンスを見せる。全員クローンのように統一されて一糸乱れぬナントカ、じゃない。バラバラ、だけど一つの大きなうねりになって、「変化の風」をみんなで生む。

「変化の風」をみんなで生んだパフォーマンス(写真/AFP/アフロ)
「変化の風」をみんなで生んだパフォーマンス(写真/AFP/アフロ)

 そうだ、こういう開会式が見たかったんだ、と感動をリアルタイムでTwitterなどに書き込む人たちが続出した。自分に障害があろうと、なかろうと、誰もがそこにいていい、そこに必要とされている。2021年の東京、ずっとさまざまなことにおびえ続け、傷ついていた私たちは、こういう開会式に共感したのだ。

 パラリンピック開会式の総キャスト数は714人。プラカードを持つ人や選手の先導役などのアシスタントキャストを含め、166人が障害のある人たちだった。ダンスパフォーマンスなどの芸術パートでは出演者の3割が障害者だったが、障害の有無にかかわらず、芸術パートのキャストは参加者5500人に及ぶ大規模なオーディションで選ばれた。総スタッフ数は1218人、その中にはアクセスコーディネーターやアカンパニストと呼ばれる、障害のあるキャストが心理的に安心できる環境を整備・支援するスペシャリストたちがそれぞれ10人と12人。そして20人の聴覚障害のあるキャストのために18人の手話通訳者がいて、それぞれの参加者が安全に、安心して動けるよう衣装やヘアメイクをサポートするチームが6人。

 そんな大所帯を率いたパラリンピック開会式とその後の閉会式でステージアドバイザーを務めたのが、「SLOW LABEL(スローレーベル)」代表でクリエイティブ・ディレクター、自らも骨肉腫による右下肢機能全廃で杖(つえ)をつく、栗栖良依さんだ。