何ができたかよりも、その経験自体が貴重
組織活動において衝突はつきもの。Arumonでも、新しいものを創るときに、チーム全員のこだわりが強いため「いや、ここはこうしたい」と熱く議論することが多いという。
「意見がぶつかっても、けんかはその場で終わります。議論して敵対して終わりではなく、アイデアAとアイデアBについて深く議論して、より良いアイデアCというものを考え出せればいいという、アウフヘーベン(矛盾する考え方を総合し、高めて解決するという意味の哲学用語)流の考え方の人が集まっているからです。皆、目指す目的は同じで、良いものをつくるために建設的な発言をできる人が多いので、この状況が困難だとは感じていません」と入江さんは話す。
むしろ、本気で向き合い、乗り越えてものを創ったときには、この上ない達成感を感じるという。一方で、活動を通して難しい、悔しいと感じることも多々あると話す前原さん。
「私たちがビジネスコンテストに出たときに同じ土俵で戦うのは、ベンチャー企業やスタートアップ企業で働く人たちです。そこに勤める人たちは24時間365日という時間をフル活用しながら企画を考えている場合が多いのですが、私たちはArumonのプロジェクトには任意で携わっているという位置付けになるため、原則として本業時間外にしか自主的な活動ができないという限界があります。情熱は負けないくらいあるものの、準備にかけられる時間でどうしてもかないません。自分たちにももう少し熱意があればとか、もう少しいいアイデアがあれば……と苦しむことはありますね」
実際、団体内で行ったピッチイベントで、皆が「それええやん!」と思う優れたアイデアが生まれた。しかし、なかなか取り組む時間が取れずに寝かせてしまった間に、それと似た商品やサービスが別のベンチャー企業からリリースされてしまったこともあった。そんな悔しい思いをたくさんしてきたArumonだが、メンバーたちはそうした経験も前向きに捉えている。
「まず『こんな気持ちになれているのは、やはりArumonに入っていたからだな』と思います。大企業で仕事をしているだけだと、自分でビジネスをつくろうという気持ちには絶対にならなかったような気がします。これ自体が私にとって非常に貴重な経験だったと思いますね。
新しいビジネスを創出するために使える時間という面では、ベンチャー企業やスタートアップ企業に勤めている人にはかないません。でも、大企業に身を置いているからこそできることもあるなと、最近になって気づきました。例えば、自分たちが創ったものを事業部に持っていって、大規模なビジネスにつなげるチャンスもあります。なので、困難や限界は受け入れて、自分たちのできる道を前向きに模索していく方向で進んでいます」と前原さんは語る。
入江さんも、Arumon内で手掛けたけれどうまくいかなかったプロジェクトを振り返って言う。「その時に何ができたかということよりも、その時の社内外のつながりを大切にし、『お互い偉くなったときにまた一緒にやろう』という気持ちで乗り越えています」