2015年に誕生したNTTグループ横断の有志団体O-Den(おでん)。わずか数人で始まった有志団体は今や5000人をつなぐネットワークに成長し、イベントを開催するとなれば1800人の申し込みがある。実際にそこで知り合ったメンバーたちから数多くの新規ビジネスも生まれている。共同代表としてO-Denを立ち上げた一杉泰仁さんと現メンバーに話を聞いた。
周囲を見渡せる余裕ができたとき、「いきいきと働いている人が少なかった」
約1000のグループ会社、働く社員はおよそ32万人……あまりにも巨大なNTTグループの「面白い人たちをゆるく横串でつなごう」と2015年に発足したのがO-Den。
NTT東日本の一杉泰仁さん、山本将裕さん(現・ONE JAPAN共同代表)が共同発起人となり、立ち上げた。
一杉さんと山本さんは2010年入社。宮城県に初期配属となり、東日本大震災に遭遇。震災後の通信網の復旧・復興に尽力した。その後、二人とも東京に異動。入社して5年がたち、支店と本社で仕事をしてきた一杉さんが周囲を見渡して気づいたのは「いきいきと働いている人が少ない」ことだった。
目の前の業務、上から振られた仕事を淡々とこなすだけ。新しいことを始めたくても社内の壁が厚い――そんな大企業ならではの閉塞感を目の当たりにした。
「私も地道に前だけ向いて働いていたけれど、これでいいのかと。山本も本人曰く『ビジネス開発本部に配属され、いわゆる花形部署だと思っていたのに何もやりたいことができず』、仕事を可能な限り早く切り上げて帰るサボリーマンになっていました。NTTを日々もっとワクワクできる会社に変えたいと思い、山本たちと数人でO-Denの活動を始めました」(一杉さん)
一杉さんと山本さんはO-Denの立ち上げ前後、社外交流会などを通じて、2年間で約2000人に出会った。まずは人脈と知見を広げつつ、社内ではメンバーを増やすため、「地道に一人ずつ声をかける草の根活動」から始めた。メーリングリストなどへの一斉メールだけではなく、メールやメッセンジャーで来てもらいたいと思う人に一人ずつ声をかけていった。このときから大事にしていたのは「『単なる若手だけの活動』と思われないようにブランディングすること」だった。
「O-Denの起点は若手かもしれませんが、会社には若手・ミドル・トップがいて、この3層が融合してこそ変わるもの。若手同士をつなぐ横串も大事ですが、ミドルやトップへの縦串、斜め串も同じぐらい重要です。だからメンバーを集めるとき、イベントを開催するときには若手だけでなくマネージャーや役員にも声を掛けていきました」(一杉さん)
記念すべき第1回の会合に集まったのは若手を中心とした9人。それからは一足先にパナソニックで社内の若手有志団体を立ち上げていた濱松誠さん(現・ONE JAPAN共同代表)など社内外の多彩なゲストを招き、前半は講演、後半は懇親会という形で親睦を深めた。特に濱松さんから聞いた「会社の閉塞感を前に、私たちが取り得る選択肢は『辞めるか』『染まるか』『変えるか』。人が集まれば会社を『変える』ことができる」という言葉はメンバーを大いに勇気づけた。
また、主催イベントであえて社内からもゲストを募ったのには理由がある。
「社外の人を招くと『あの会社だからできる』となってしまいがち。そこで社内のイノベーターや会社を変えようと挑戦している人の話を聞くことで、NTTにも革新的な人はいるんだ、やる気になって行動すればできるんだ、と知ってほしかったからです。O-Denを着火剤にして、参加者のやる気とモチベーションに火をつけられればと思いました」(一杉さん)
高見暁さんともそうした人脈を広げる中で出会った。高見さんは08年にNTTデータに入社、人事部に配属された。「社員の視野を広げ、視座を高めよう」とNTT参与の横浜信一氏を塾長として開催していた「横浜塾」の運営事務局に13年から携わる中で、O-Denを立ち上げる前の山本さんと会った。
「横浜塾はNTTデータグループの社員に限らず誰でも参加できる場で、アルムナイも参加しています。日ごろは真面目に目の前の仕事に取り組んでいる社員が多いので、NPO法人の代表やヘッドハンターなど、あえて刺激的な講師を招いて、講演をしてもらっていました。山本さんからO-Denの構想を聞き、迷わず参加を決めました」(高見さん)
太谷成秀さんは14年、NTT東日本に入社。新潟支店に配属され、中小企業向けのコンサルティング営業を担当。社内の懇親会で、すでにO-Denの活動を始めていた一杉さんと会った。
「夜中1時ぐらいの3次会で、一杉さんに『本当にやりたいことはある? 仕事でワクワクしてる?』と聞かれて答えられなかったんです。私は新潟支店の中では一生懸命に仕事はしていたけれど、これでいいのかとモヤモヤしていたところでした」(太谷さん)
日を置かずO-Denのイベントに参加したところ、「衝撃を受けた」。
「一杉さんや山本さん、メンバーの人たちを見て『一歩組織の外に踏み出すと、こんなにも熱量があり、心の底からワクワク楽しく仕事をしている人がいるのか』と驚きました。それまでワクワク楽しく仕事をするという概念なんて聞いたことがありませんでした。以降、O-Denのイベントにはすべて参加しようと決めて、新潟から東京へ毎回駆け付けるようになりました」(太谷さん)