2021年4月、多様性の観点から、城崎国際アートセンター(KIAC)で女性の館長・芸術監督が同時就任した半月後、「演劇のまちづくり」や「ジェンダーギャップ解消」政策の旗振り役だった兵庫県豊岡市長・中貝宗治さんが市長選で落選するという出来事が起こります。女性に優しいまちを目指す途上での行政トップの交代劇がもたらした変化とは? KIAC館長の志賀玲子さんと前館長の田口幹也さんに、豊岡市におけるダイバーシティ推進の実情を聞きました。

(上)「要職にはおじさんばかり」に違和感 館長交代の舞台裏
(下)ジェンダーギャップ解消の推進途上 市長交代の影響は? ←今回はココ

編集部(以下、略) 01年、兵庫県豊岡市長就任から通算20年間市政を率いた中貝さんが、21年4月の市長選で1600票強の差で落選。「演劇のまちづくり」からの転換を訴えていた関貫久仁郎さんが初当選しました。志賀さんが館長に就任した同じ月のことです。

田口幹也さん(以下、田口) 志賀さんが館長に就任するタイミングでのことで、正直いって想定外の結果となりました。館長を引き受けてくれた志賀さんには、申し訳ないという気持ちでしたね。

―― 中貝さんの政策は、若年層を中心とした人口減少の原因は地域の根深い男女格差にあるとし、交流人口を増やす手段として演劇に注目。一方、現市長の関貫さんは、0~3歳児の医療費無料化など子育て支援の具体策を打ち出し当選しました。この結果をどう受け止めていますか?

志賀玲子さん(以下、志賀) 前市長の政策が正しいか、そうではないかという評価ではなく、市民の皆さんに地域振興のための演劇のまちづくりやジェンダー平等の取り組みがしっかり伝わっていなかった、理解されていなかったことが、市長選で数字として明らかになった。その事実を厳粛に受け止めています。

―― 新型コロナウイルスの影響下、KIACでは国内外から参加者を招聘(しょうへい)するアーティスト・イン・レジデンス(滞在制作)の活動が、休止や規模縮小を余儀なくされました。市民には将来への先行き不安が広がるなど、複合的な要因があったかもしれませんね。

志賀 社会情勢の影響もあったとはいえ、ジェンダーギャップ解消やダイバーシティの推進について、市民全員がもろ手を挙げて賛成するといった革新的なことは今の日本ではやはりまだ起きづらいでしょうね。世代交代や新しい価値観が浸透するまでには時間がかかりますし、短期間の成果が分かりづらい。「志賀さん、大丈夫ですか?」と多くの人が心配してくれましたが、私自身は「これまでの揺り戻しがあっただけ」と考えています。

市長選後の市議選では、若手の候補が多く出馬した

―― 実際に、新市長の体制下で方向性に変化を感じますか?

志賀 行政のリーダーが交代する影響は、非常に大きいと思いました。ただ、市の基本計画は5年、10年スパンで策定されています。ですから、「ジェンダーギャップ解消」や「演劇のまちづくり」といった方針は、市長が交代してもゼロベースに戻るわけではありません。

 前市長の体制で骨太な基本構想が立てられているので、現状、根本的には揺らいでいないと私は感じています。市の取り組みは必ずしも属人的なものではないというのが実感です。田口さんはどうですか?

田口 そうですね。豊岡市の2022年度の市政経営方針を見ても、同じように「ジェンダーギャップ解消と多文化共生」を推進していますし、文化芸術のまちづくりにも取り組んでいきますので、早々に変わらないとは思います。ただ長期的には、今後これまでの施策の本質の部分を市民がどれだけ理解しているかで、影響は当然出てくると思います。

豊岡市では、22年9月に「豊岡演劇祭2022」をKIACなどで開催予定。写真は、ノイマルクト劇場+市原佐都子/Q『Madama Butterfly』。プッチーニのオペラ『蝶々夫人』を原案に構造を反転させ、日本人女性からの視点で西洋人男性を描き、人種やジェンダーに対する先入観を痛烈に問い直す(写真はKIAC提供) (C)Philip Frowein
豊岡市では、22年9月に「豊岡演劇祭2022」をKIACなどで開催予定。写真は、ノイマルクト劇場+市原佐都子/Q『Madama Butterfly』。プッチーニのオペラ『蝶々夫人』を原案に構造を反転させ、日本人女性からの視点で西洋人男性を描き、人種やジェンダーに対する先入観を痛烈に問い直す(写真はKIAC提供) (C)Philip Frowein

―― 本質の理解とは具体的にどういうことでしょう。