「防災とジェンダー」をテーマに、災害時における被災の男女格差について研究を続けている静岡大学教育学部・同総合防災センター教授の池田恵子さん。テレワークや二拠点生活など、働く場所も多様化する現代。災害が起きる前から、備えておくべきこととは? 多様性の視点から日本の防災体制の現状と課題について聞きました。
(上)災害被害にジェンダー課題が密接につながる理由
(下)防災現場に女性不在 平常時の格差は災害時に反映される ←今回はココ
編集部(以下、略) 災害における被害の男女格差是正に向けて、何から取り組めばいいのでしょう?
池田恵子さん(以下、池田) 日本では近年、自治体や企業で女性管理職が増えていますが、管理職全体で見るとまだ男性が圧倒的多数です。町内会や自治会といった地域の組織でも、役職に就く人のほとんどが退職世代の高齢男性です。こうした普段の社会の姿が、災害時の対応にもそのまま移行されます。
災害復興時のボランティアや避難所の管理、行政の危機管理担当部署も含め、意思決定レベルの役割を担うのはほとんどが男性です。地方自治体の地域防災計画の策定から町内の防災訓練の企画にいたるまで、発言権や発言機会の少ない女性の意見が反映されにくく、そのために女性のニーズに即した支援がなされないケースが多い。日常の中に、見えない水のようにジェンダー問題が浸透しているのです。
2つの「ジェンダーニーズ」は分けて考える
―― 私は中学生のとき、1995年の阪神・淡路大震災で被災しました。その際、避難所で統率するのは父親たちで、母親は自宅にある食料をお互い分け合うなどして、子どもの世話をしていた姿が印象に残っています。「普段から固定的なジェンダーロールがあることが、被害の格差を広げる要因になる」という指摘がある一方で、実際の災害現場で男性と女性が同じ働きができるかというと、状況によって適した仕事も得意分野も異なります。この点について、どう考えるといいのでしょう。
池田 開発援助において、2種類の「ジェンダーニーズ」 という概念があります。1つは「実際的ジェンダーニーズ」で、対象社会の男性・女性が自分の役割や責任を遂行するために必要なことです。例えば、今の例ですと「女性は子どもや高齢者の世話をして、水や食料の確保をする」といったことを指します。深刻な被害が発生する災害時は、不平等を訴えるよりもまず、各自が普段担っている役割を果たして、被害を乗り越えることが求められるでしょう。しかし、それだけでは性別役割がますます固定化され、不平等のさらなる再生産につながっていきます。
―― 必要に迫られて役割を務めているうちに、ニーズが固定化されやすくなるのですね。もう1つのジェンダーニーズはなんでしょう。
