SNSなどで子宮頸(けい)がん予防のHPVワクチンに関する情報発信を行う産婦人科医の稲葉可奈子さん。子宮頸がんは20代から罹患(りかん)率が上昇し、30代~40代の罹患率が最も高くなります。仕事・結婚・出産とライフステージが大きく変化する年代に、子宮頸がんでチャンスを奪われるとしたら? HPVワクチンに関する正しい知識と、打っていない世代はどのように子宮頸がんを予防すべきかを稲葉さんに聞きました。
HPVワクチン接種率が低い日本
日経xwoman編集部(以下、――) 2021年10月1日、厚生労働省の専門部会は子宮頸がんの主な原因となるヒトパピローマウイルス(HPV)感染症を予防するHPVワクチン(以下、ワクチン)について、「接種を個別に呼び掛ける積極的勧奨を妨げる要素はない」との認識で一致し、今後は再開に向けた審議が進むようです。過去に副反応と疑われる報告が相次ぎ、同省が2013年から「積極的な勧奨は控える」としていたため、日本の接種率は低いままなのですね。
稲葉可奈子さん(以下、稲葉) そうですね。グラフを見ると分かりますが、日本は世界各国と比べても接種率が非常に低い状況が7年以上も続いていました。
―― ワクチンは打つべきですか?
稲葉 打つべきかどうかと聞かれたら、もちろん打つ方がいいです。子宮頸がんは予防できるがんだからです。ワクチンがある子宮頸がんや、ピロリ菌を除菌する胃がんなど、予防できるがんはそれほど多くありません。ワクチンでがんを予防できるというのは、すごいことなんです。せっかくの予防の機会を逃し、命を危険にさらすことだけはしないでほしいと思います。
―― 過去のニュース映像ではワクチンの接種後に記憶障害になったり、車椅子で生活していたりする人の姿が報道されました。接種しようにも「本当に安全なのか」「リスクはないのか」と不安な人もいると思います。
稲葉 現在、日本で定期接種されているワクチンでは、10%以上で「注射部位の痛み・赤み・腫れ」などの副反応が報告されています(厚労省発表2019年6月時点)。こういった症状は、ワクチンの接種による副反応ですが、一時的な症状で、短期間で改善します。
一方で皆さんが不安に思われているのは、2013年にニュースでたびたび報道された記憶障害などの症状だと思います。これらについては、日本を含め世界中の多くの研究で「接種した人たち」「接種していない人たち」のそれぞれのグループで、症状の発生頻度に差がないことが確認されています。つまり、ワクチン接種により症状が出るとはいえないということです。
さらに安全性のデータに加えて、有効性についても新しい研究結果が出てきています。
―― どのような研究結果ですか。