人生のチャンスを諦めないために

―― どんな病気も避けられるに越したことはありませんが、稲葉さんが子宮頸がん予防の啓発活動に力を入れる理由とは何ですか。

稲葉 それは子宮頸がんが誰でもなりうる病気で、しかも若くしてなりうる、なったときの人生への影響がとても大きい病気だからです。20代後半~40代という、女性にとってはキャリア、結婚・妊娠、子育てとライフステージが大きく変化する時期に、子宮頸がんによってチャンスが失われることにならないように、予防できる病気は予防してもらいたいと思います。

 妊娠して初めて子宮頸がん検診を受ける人も少なくないのですが、待ち望んだ妊娠と同時に子宮頸がんが発覚したら、出産を諦めなくてはいけなくなるかもしれません。進行の度合いによっては子宮そのものを失う可能性もあります。

子宮頸がんの罹患率は20代から上昇する
子宮頸がんの罹患率は20代から上昇する

―― 実はここ数年の間に、私の回りでは30代後半で子宮頸がんになって子宮を摘出した女性、亡くなった50代の女性がいます。改めて定期検診、早期発見・早期治療が大事だと感じました。

稲葉 そうですね。ただ、気を付けてほしいのは「早期発見・早期治療」というと、「早く見つかればオッケー」と思われがちですが、子宮頸がんについてはそうではありません。がんになる手前の「前がん病変」の状態でも大変です。数カ月ごとの経過観察が必要ですし、その度に内診台で診察を受け、診察時には出血もあります。内診台での診察は恥ずかしさや苦痛を伴いますし、受診のために仕事も休まなくてはいけません。何よりも「今回、病状が進行していたらどうしよう」という不安を抱えて過ごすことになります。だから前がん病変を防ぐためにもワクチン接種が必要です。

 ワクチンを接種していたとしても効果は100%ではないし、検診だけ受けていればいいというものではありません。ワクチンと検診の両輪で予防することが何よりも大事です。

―― 日本でなかなかワクチン接種が進まない現状に関しては、どう思われますか。

稲葉 ようやく定期接種の積極的推奨が再開に向けて動きだしそうですが、もう歯がゆくて、歯ぎしりで歯がすり減りそうな思いです。

 また、子宮頸がん予防に関する正しい情報を発信しても、SNSなどでは反対派からコメントが書き込まれることがあります。反対意見のほうが過激で目につきやすく、数も多いんですね。そうしたコメントに影響されて、ワクチン接種を控えている人がいるのでは、と心配しています。それでも知らずに予防する機会を逃してしまうことだけはないように、1人でも多くの人に正確な情報が届くように、発信を続けていきます。

―― 新型コロナウイルスのワクチンでも反対の声がありましたが、日本ではワクチンに対する抵抗が強いのでしょうか。

稲葉 コロナワクチンとはまた状況が少し違って、HPVワクチンについては、2013年の副反応の疑いに関する報道のインパクトが非常に強く、その後も特に安全性についての報道がなかったため、なんとなく「危険なワクチン」という印象を持ったままの人が多いです。その不安が払しょくされるよう、エビデンスに基づいた安全性についてしっかり伝えることが重要です。

 子宮頸がんで夢を諦めることのないよう、10代のうちはワクチン接種による予防、20歳を過ぎてからは検診で自分の身を守ってください。また、新型コロナウイルスの感染拡大により定期接種の期限を延長している自治体もあるので、高校2年生以上の人も自治体に問い合わせてみてください。

取材・文/三浦香代子(日経xwoman編集部)
グラフ出典/全国がん登録罹患データ、WHO

稲葉可奈子(いなば・かなこ)
産婦人科専門医、医学博士。子宮頸がん予防に関する啓発活動を行う「みんパピ!」代表。双子含む4児子育て中。日夜ツイッターで子宮頸がん予防に関する情報を発信中。