育児への不安やストレスから、産後の女性の約10人に1人がなるとも言われる産後うつ。産後1年以内の女性の自殺の主要な原因と考えられるほど社会問題となっています。ただ、男性にも産後うつがあることはあまり知られていません。国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター認知行動療法センターの精神科医、中嶋愛一郎さんに男性の産後うつの実態と会社や家族にできることを聞きました。

日経xwoman(以下、――) 主体的に家事や育児をする男性が増えています。2022年4月からは改正育児・介護休業法が段階的に施行され、男性も育休を取りやすくなります。そんななか、中嶋さんは男性も「産後うつ」になるという事実があまり知られていないことについて、懸念していますね。

中嶋愛一郎さん(以下、敬称略) 多くの調査では、パートナーの妊娠中から産後1年までの期間にうつ症状が発生した場合を「男性の産後うつ」と定義しています。男性の産後うつを定量的に明らかにした調査としては、米国で最も権威のある医学誌『ジャーナル オブ ジ アメリカン メディカル アソシエーション』に2010年に掲載されたものが有名です(*1)。この調査では10人に1人、つまり1割の男性が産後うつを発症するとの推定結果が報告されました。その後も調査が何度かされていて、20年の別の調査では産後1年以内に約9%の男性が発症すると報告されました(*2)。

 今後、男性の育児が増えるにつれ、産後うつを発症する男性は増加する可能性があります。にもかかわらず、男性も産後うつになることへの認知が一般にほとんどなされていないことを危惧しています。

―― 症状はどのようなものでしょうか。また、女性の産後うつと異なる点はありますか?